TVアニメ「超時空要塞マクロス」の二次創作を公開しています。
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§4 マイクロンの棲む星
 あふれかえる光。金のパイピングを贅沢に使った、ゼントラーディの礼服。胸を飾る数々の勲章。静かに、威容を持って進む五千の艦艇。居並ぶ将兵。きらびやかな賞賛の声。
 かつてそれらの物をすべて所有していた女性がいた。かすかな憂いを秘めた深緑色の瞳を、いつも宇宙の深淵に向けていた。その横顔を間近に仰ぎ、片時も離れることなどなかった。それが任務であり、すべてであった。それ以外は何も考えなくてよかったのだ。あの日が来るまでは…

 ランは目を覚ました。意識が戻るのと入れ替わりに、今見ていたはずの景色は雲散霧消してしまい、彼女に何の記憶の手がかりをも残さなかった。
 すでに時刻は夕刻を迎えたらしく、厚い雲に覆われた空は、さらに暗さを増した不気味な色彩を放っている。
 目をこすりながら、ランは改めて周囲を見回してみた。今の彼女の周りにあるものは、岩と土くれと廃墟を、雪の厚化粧で隠したみじめな惑星。埃まみれの戦闘服。やかましい音をたてる機械類。寄せ集めの兵士たち。そして眼前にいるのは…
「いいかげん起きろ、よく寝る奴だなホントに」
 顔に大きな傷跡のある女戦士が、彼女の今の上官であった。
 アゾニアはランが目を覚ましたことを確認すると、半ばあきれ顔、半ば安堵の顔で相棒の肩から毛布を引き剥がし、手際よくたたみ始めた。
「暗くなったら出発するぞ。具合はもういいか?」
「あ、うん…」
 答えはしたものの、本当はどうもすっきりとしない。ランはぼんやりした思考をめぐらせた。もともと寝起きは悪くない方であったのに、このところ訪れる強烈な眠気は何なのであろうか。
「顔、洗いたいな…」
 独り言のつもりだったのだが、アゾニアの耳にはしっかり届いたようだった。
 が、それに答えた声は、意外にも優しく、申し訳なさそうにすら聞こえた。
「我慢してくれよ…あたしだって、たっぷりシャワーを使いたいさ。けど、外じゃ贅沢はできやしない。目ぇ覚ましたけりゃ、雪を使いな。水缶の水は使うなよ」
 意外な言葉に、ランはいたずらっぽい表情を浮かべた。
「へぇー、アゾニアもシャワー浴びるんだ…」
「失礼な事言うなよ。あたしは清潔好きなんだぜ」
「フケツが好きなのかと思ってた」
「コイツ!」
 拳を振り上げたが、アゾニアの目元は笑っていた。
 彼女はそのまま機械類の点検を始め、ランに背中で語りかけた。
「一旦作戦に入っちまったら、フロなんて夢のまた夢さ…何日も何日も、垢まみれ埃まみれ。ついでに血まみれだ。装甲服ん中は汗でべったりになるしな。すごいぞ、地上戦は。上からは泥やら仲間の手足やらがバラバラ降ってくるんだから」
「フーン」
 ランは目を丸くして聞いている。
「歩兵部隊の奴らは、戦闘ポッドの装甲板に囲まれてるけどな。あたしら砲兵はムキダシのまま作業しなけりゃなんないだろ?ミサイル一発飛んできたら、装甲服なんて、気休めにもならないさ」
 同じゼントラーディ軍人でありながら、二人の住んでいた世界はあまりにも違っていた。
 アゾニアはさらに何かを話そうとして、苦笑と共に口をつぐんだ。この小さな将校の脳細胞の働き一つが、大隊どころか、何個師団もの軍団の生死を左右する。間接的にしろ、弊した敵の数は彼女の方がはるかに多いに違いない。何千隻の艦隊さえ、彼女にとっては作戦図上の部隊符号と同価なのだろう。
「で?で?」
 それとはお構いなく、ランはせき立てるように荷台から身を乗り出してきた。きらきらと輝く大きな丸い目を見て、女戦士の口元はほころんだ。
「そんな面白いか?あたしの話が」
「うん、アゾニアの話はみんな面白い。私、戦闘の様子はスクリーンで見るか、報告を聞くだけだもの。いいな。私も地上戦、やってみたい」
「下らない事言うなよな」
 アゾニアは思い切り渋面を作った。
「お前、何のために製造されてきたんだよ。お前にはお前にしかできない任務ってもんがあるんだろ?」
 赤い瞳に微妙な影がさしたようだった。
「うん…でも私…もう…」
「言ったろ、一時的なもんだって。あんまり無理に思い出そうとすると、かえってよくないぞ」
 しかし忠告は遅きに失したようであった。相棒の顔色が微速度撮影のように青ざめるのを見て、アゾニアは軽く舌打ちした。どうやら彼女に掛かった記憶の鍵が、無理矢理こじ開けられるのを拒んでいるらしい。
「…頭痛い。気持ち悪い。吐いていい…?」
「…できれば、あっちでな」
 ランはゆっくりと、車両の荷台から降りようとした。
「ホラ、銃」
「はぁい…ねえアゾニア、これ持ってっちゃダメ?」
 荷台に備えてある、予備のビーム銃だ。
「ん…まぁいいや。気をつけろよ」
 よろよろと歩いていく相棒の背中をちらりと見やって、作業に戻ったアゾニアであったが、心の中にはどこかぼんやりとした不安の黒雲がわき出しつつあった。
 たとえランの記憶に欠落した部分があるとしても、記録参謀としての能力にさえ異常がなければ、アゾニアにとってはそれでいいはずであった。

 アゾニアは車両の点検を終えると、ランの様子を見に行くつもりで岩場を出た。その時である、かすかな大気の振動がアゾニアの耳を通り抜け、再び空の彼方に消えていった。
 反射的に身を低くし、耳を澄ます。警戒信号が体内に鳴り響いていた。音は間違いなく航空機から発せられるものだ。
「ランの奴、遅いな…何やってんだ…」
 ここは敵地だということを、あの記録参謀は分かっているのだろうか…
 アゾニアは付き添わなかったことに一抹の後悔を覚えた。その時、またあの音が聞こえてきた。しかも音はアゾニアの神経を逆撫でするように、確実に大きくなってくる。
「アイツ、まさか!」
 何となく出て行かせてしまったが、まさか丘の上に向かったのではないだろうか。
 あわてて身を起こしたアゾニアの耳に、甲高い声が飛び込んできた。
「アゾニアーッ!敵だ!敵がいた!」
 次いで目に入ってきたのは、バタバタと泡を喰って駆け寄ってくる相棒の姿だった。肩に担いだ銃身がきらりと光った。
「あのバカ!」
 チタンシルバーの銃身が反射する光はこの曇り空でも十分遠方に届くだろう。アゾニアは己の迂闊さを呪った。
 その瞬間、不吉な予感が確信へと変わった。ランの後を追いかける影が上空に姿を現すと、瞬く間に航空機の形となって駆け抜けた。巻き起こる轟音と突風。ランは耳をおさえ、しゃがみ込む。
「!!」
 アゾニアは飛び出すと、ランの襟首をひっつかみ、近くの岩陰に飛び込んだ。
 敵の航空機は大きく旋回し、再びこちらに向きを変えつつある。
「ア、アゾニア…」
「このバカ!敵がいたら、じっと伏せて大人しくしてるんだ!」
「ええっ、でも…敵を発見したらすぐ報告しなきゃ…」
「バカッ!どうせ敵の見てる前で動いたんだろう!」
「ごめん…でも、遠くだったし…」
 アゾニアはすでにランの言葉など聞いていない。上空に神経を集中させていた。はるか上方に、敵の空戦機動兵器が二機、旋回している。
「撃ってこないな…あたし達をとっつかまえる気なのかもな」
 朝方見た、敵の都市にいた同胞の姿が思い出された。彼らは捕虜となり、強制労働でもさせられているのだろう。彼女らにはそういう理解の仕方しかできない。
 アゾニアは弾倉を点検すると、ランに指示をした。
「あたしが時間をかせぐから、お前は車まで走ってキャノンを撃て」
「ええっ!」
「どうせ当たりっこない。とにかくブッ放せ、急げ!」
 言うが早いか、アゾニアはすっと立ち上がり、岩場を飛び出しざま、上空の敵めがけて銃を乱射する。
 敵機はさっと散開し、レーザー機銃を放ってきた。光の線は足元をかすめ、雪の地面に吸い込まれる。走りながら反撃をしようとして、アゾニアは敵の一機がくるりと機体を翻させるのを見、一瞬目を見張った。
「なんだこいつ!?」
 機体の下に脚部が現れた。
 驚くアゾニアの眼前で、人の姿となった敵機は着地した。その際、何か言葉を発したようであったが、もとより、敵の言葉など分かろうはずがない。アゾニアは目の前の敵に向けて銃を構えたが、その鼻先を再びビームがかすめた。
 上空に残った一機からのものだった。同じように脚を出し、牽制するように低空をホバリングしている。
「ちっ」
 アゾニアは大きく横っ飛びに跳ぶと、近くの岩に身を寄せた。が、岩陰から上空の敵を狙おうとして、彼女はさっきまで自分の居た地点に、まだ人影があることに気が付いた。
「何してる!早く行け!」
 人影は岩に寄り添ったまま、まるで硬直した映像のように動かなかった。
 再び怒鳴り声を上げようとしてアゾニアははっとした。音だ。宇宙空間における戦闘では音はない。初めて聞く敵機の爆音と銃の音に、宇宙育ちの将校はすっかり竦み上がってしまっていたのだ。
「ちくしょう…あんまりこんな事はしたくないんだよな」
 アゾニアは敵機から目を離さずにそっとしゃがみ、足元の雪の下から手頃な石を数個拾い上げ、慎重に狙いをさだめた。
 身を強張らせていたランの眼前を、猛烈なスピードで小石がかすめ、岩の壁に当たって粉々に砕けた。続いて投げつけられたのはアゾニアの罵声だった。
「こらあ!コマンダーに言いつけっぞ!」
 ランはその一言で我に返り、弾かれたように走り出した。いかにも頼りなげに見える彼女も、軍人には違いなかった。車両を隠してある岩陰に文字通りすべり込むと、手早くカバーを外し、その体にはかなり大きい把手を両手で握る。そして全身を使って上空に砲身を向け、引き金を引いた。
 光の束は、目標の近くを通り抜け、虚空へと姿を消した。
 目の前の敵が僚機に気をとられたほんの一瞬の隙を、百戦錬磨の女戦士は見逃さなかった。
「でやっ」
 するどい気合いと共に手首が再びひらめき、石のつぶてが敵機のモニターカメラを直撃した。間髪を入れず、よろめいた敵の胴体部に向かって、弾丸のありったけが叩き込まれた。
 敵機は動きを止めた。
 半瞬の後、小爆発が上半身にいくつか起こり、敵機は立ったままの姿で沈黙した。それを見た上空のもう一機は身を翻し、後退しようとした。
 その後ろ姿を追い、再び光条が走った。狙いは外れたが、光は翼をかすめ、敵機は大きくバランスを崩し失速した。そしてそのまま体勢を立て直すことなく、丘の向こうに姿を消していった。30秒ほどして、二人の耳に鈍い爆発音が届いた。
「ふーっ」
 アゾニアは手の甲で額の汗を拭うと、大きく息をはいた。
「やったな、ラン」
 小さな相棒は、緊張のためか半ば顔をひきつらせながら息をはずませていたが、アゾニアの声を聞くとぎこちなく微笑み、車両を降りて駆け寄ってきた。
「どうだ?戦ってみたかったんだろ?感想は」
「う…うん、またやってみたい」
 コチコチの笑顔から放たれるその言葉に、思わず吹き出しそうになる。
「はは、参謀ドノにしちゃあ上出来だ。ま、音は…慣れてくれよ。音で死んだ奴はいねえんだから」
「うん…」
 苦笑しながら、アゾニアは敵機の残骸に目をやった。弾倉を新しいものと交換すると、用心深く近づいていく。
 ふと足が止まった。
 少し離れた場所に、敵兵の死体があった。体と首が不自然な方向にねじ曲がり、その側には操縦席とおぼしきものが転がっている。脱出しようとして失敗したのだろう。
「こいつがマイクロンか…」
 姿形は変わりないにもかかわらず、大きさは自分たちの膝ほどもない。アゾニアは深く息を吸い込むと、さらに用心深く、銃の先で敵の死体をつつこうとした。
「や、やめようよ…」
 弱々しい声が背後からかけられた。
「大丈夫だって。死んでる」
「駄目!」
 その声のあまりの剣幕に、アゾニアは思わず振り返った。声の主は、明らかに怯えきった様子で、顔は青ざめ、唇を引きつらせ、全身を震わせていた。
 ランは文字通り飛んできてアゾニアの腕にしがみつくと、必死の形相で引っ張った。信じられないほど強い力だった。
「…おい…」
「駄目だよアゾニア。やめようよ。怖いよ…」
「怖い!?」
 それは、彼女らが発してはならない言葉のはずだった。
 何か言おうとしたアゾニアであったが、相手の表情が尋常でないことに気がつき、思わず口を閉じた。
 赤い瞳は焦点を失ったかのように見開かれ、腕をつかむ手は小刻みに震えている。早朝の、敵の街を見たときの様子にも似ていたが、それよりさらに大きな恐怖にさらされているように見えた。
「わかったよ…」
 あの時の破局を再現するつもりはアゾニアにはなかった。女戦士は軽くため息をつき、安心させるようにランの肩を抱くと、敵機にかすかな未練を残しつつも車両に戻った。
「あれは、何だったんだろうか…」
 アゾニアは小さくつぶやいた。あの敵機が降り立った時、何か不思議な音の響きを耳にした気がするのだ。爆音に紛れ、よく分からなかったが、それは彼女が聞き慣れた戦場の音とはまるで性質が違うものであった。
 動転していたランは聞いてはいまい。が、帰路の途中もアゾニアには妙に引っかかっていた。できればもう一度、聞いて確かめてみたいと。

 明くる日、野営地に戻ったアゾニアは敵と遭遇したことを告げ、部隊の移動を命じた。彼女は一つ所に長居する事を嫌い、これまでも野営地をひんぱんに変えている。
 そして軍団の全将兵に対し、上空にはもう友軍は残っていないこと、残った手だてとして、損傷の少ない戦艦を発見し、活路を開くことを宣言した。
 兵士達は主力艦隊が壊滅していることへの衝撃と、これからの新たな戦いに向けての高揚感に身を震わせた。厳しい状況は、かえって生まれながらの戦士である彼らを奮い立たせるのだ。
 出発準備の喧噪の中、アゾニアはフィムナの姿を探していた。上官のために数少ない荷物を運ぼうとしていたフィムナは、乗艦の位置を知りたいから、歩いてきた方角を大体でいいから分からないかと問われ、目を丸くした。
「艦を探すって…アルタミラの事だったの…!?」
「聞いたよ。あんたの上官から。あまりダメージを受けてないってね」
 その答えに、フィムナの頭に二つの重大な疑問が湧いた。
「確かに損傷は少なかった。けど、飛べないことには変わりないぞ。一体どうしようっていうんだ」
「これを見な」
 アゾニアはにんまりとした笑いを浮かべ、数枚の写真をフィムナに手渡した。そこには先だっての偵察で撮ってきた、敵の街の様子が写されていた。
「あたし達が丸坊主にしてやった所に、奴ら、もうこんな施設を作ってやがる…驚異的なスピードだ。ほら、こうやってあたし達の仲間を使ってね…利用しない手はないと思わねぇか?」
「ま…まさか…」
「そうさ、使えるものは何でも使うさ。直接奴らをひっつかまえるもよし、それより、ここに捕まってる連中を助け出して協力してもらえば、あたし達もこの技術を手に入れられるかも知れないだろ。艦の修理ぐらい、出来るさ」
 フィムナは驚愕と感嘆と困惑の入り混じった視線でアゾニアの向こう傷を見つめた。彼女のような明敏な頭脳を持つ者でさえ、そのような考えは及びもつかない。このときの彼女には、目の前のアゾニアという女が、得体の知れない怪物に思えた。
 事実、アゾニアは怪物であった。彼女は、惑星上という過酷な戦場に長年根を張り、死に満たされた大地から本当の意味での「生きる力」を吸収した、ゼントラディアンの突然変異体といってもよかった。絶望的な敵との差を思い知らされながら、逆にそれを利用しようとする。恐るべきしたたかさである。
 フィムナは何も言わず、再び手元の写真に目を落とした。その様子に、アゾニアの気圧に微妙な変化が生じたようだった。
「お前ら、敵のことについて、ある程度は知ってたんだろ?」
「……!?」
 フィムナは顔を上げた。アゾニアの薄水色の瞳から放たれる光がそれを射抜く。
「し…知ってる事は全部話したよ…」
「じゃあなぜ敵がマイクロンだと言わなかった」
「それは…」
 フィムナは唇を歪めた。正直な話、ここの連中に話しても無意味だと思っていたことは否めない。がしかし、自分でも理解できない事を、どうやって他人に分からせようというのだ。
 先ほどまで薄笑いを浮かべていたアゾニアの口元が、低い唸り声をあげて歯をむき出すのを見て、フィムナは戦慄した。理性より先に足が動き出し、その場から去ろうとしたが、女戦士の動きがそれを上回った。
 フィムナは腕を捉えられ、アゾニアは獲物を掴む手に力を込めた。
「ランの怯え方は尋常じゃない。一体お前達は何を見た!話せ!」
「痛い!」
 フィムナは悲鳴をあげ、アゾニアははっとして手の力をゆるめた。過剰な暴力を振るった気恥ずかしさが顔にひらめき、女戦士は一歩下がった。
 解放されたフィムナは腕をさすりながら、それでもその場から立ち去ろうとはせず、思い詰めた表情で、可聴域ぎりぎりの低い声を出した。
「……女…だ…」
「おんな?」
「若い女だ…マイクロンの…でも、それ以上は分からない。あれが何だったのか、本当に分からないんだ!」
 フィムナは激しく頭を振った。もともと落ち着きのない濃い金髪があちこちに乱れ飛ぶ。
「アゾニアこそ、何でアルタミラの事を知ってるの…」
「なに…」
 今度はアゾニアが困惑の表情を浮かべる番だった。
「あんたの参謀が言ったんだよ」
「うそ!」
 フィムナは肺が空になるかのような声を出した。
「参謀は…ずっと意識がなかったんだ!そんな事、艦の状態なんて、分かる訳がないっ」
「なんだと…」
 不審の色が、野性味のある顔を次第に染め上げていった。今回の偵察行の間に遭遇した、いくつかの不可解な出来事が次第に奇妙な輪郭を形成し出したようにアゾニアには感じられた。しかし、それがどのようなものになるのか、今の時点で分かるべくもなかった。

 地球統合軍、西部方面パトロール隊所属、クリストファー・フォスター少尉は、パイロット課程を修了して初めてのパトロール任務で、不運にもはぐれゼントラーディ人と思われる敵と遭遇し、撃墜されてしまった。
 僚機のニールセン中尉は戦死し、自身は脱出の際、大腿骨骨折の重傷を負ったが、命に別状はなかった。
 しかし彼にとって本当に不運だったのは、その後の報告内容が上層部にまともに受け取ってもらえなかった事であろう。が、それを彼のせいにするのは酷というものだった。
「本当です!本当に見たんです。子供連れの男でした。小学生ぐらいの女の子が本当にいたんです」
「何をバカな事を言っとるんだ。ゼントラーディ人ってのは、全員クローン人間なんだ。子供なんかいる訳はないだろう。それに、奴らは男女の同居を嫌う。ちゃんと教範読んどらんな。クリス」
 当人たちが聞いたらさぞ言いたい事が多いであろうこの報告内容は、上層部によって報告者の未熟さを過剰に考慮に入れられ、結局、統合軍の記録には「ゼントラーディ人散兵二名」とだけ記されることになったのである。

 西暦2010年2月、後に「第一次星間大戦」と呼ばれることとなる、地球全土を焦土と化した戦いに地球統合軍は辛くも勝利し、ゼントラーディ軍第118基幹艦隊は中枢司令部を失い撤退した。
 戦いで傷つき、航行能力を失った艦は引力に引かれ、地球への不時着を余儀なくされた。そしてその中には、多くの兵がまだ生き残っていたのである…
 統合軍は直ちに、ブリタイ艦隊の将兵も動員した宣撫活動を開始し、生き残りのゼントラーディ将兵に対して「平和的戦争終結」を呼びかけ、一定の成果を得た。
 が、地球全土に散らばったゼントラーディの艦は推定2千隻。とてもそれらの全てとは接触しえず、さらに、乗員が移動を行ったりしてその行方をつかめなかったケースもあり、未だ地球軍を敵対勢力として認識しているゼントラーディ残存部隊の実態は、完全には掌握しきれていない…
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