TVアニメ「超時空要塞マクロス」の二次創作を公開しています。
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§6 コンタクト
 アングレーム・シティで起こった事件は、地球新統合政府の人々の背中に冷水を浴びせるには充分だった。
 政府とは言っても、完全な軍政である。ボドル基幹艦隊の攻撃によって、もはや地球のどこにも政府らしきものは残されていない上に、未だ宇宙のどこかに潜むゼントラーディ軍の攻撃の可能性が捨てきれない現状にあっては、旧マクロス司令部を中心とした軍主導の体制の方が、市民にとっても安心できるものであった。
 しかし恐れていた事態は宇宙からではなく、地上からやって来た。
「最初から目標を定め、よく作戦を練っている。明らかにこれまでのパターンとは違う…」

 基幹艦隊崩壊後、統合軍は地上に取り残された残存ゼントラーディ軍に対し、停戦と和平を呼びかけた。それに対し、ゼントラーディ軍は激しく抵抗したが、それは戦闘というより、場当たり的な反撃にすぎなかった。
 命令を下すべき機関を失ったゼントラーディ兵たちは、士気を維持することができず、食料や弾薬の不足も相まって、次第に地球側の呼びかけに応じ、あるいは自滅の道を歩んだ。
 指揮命令系統を失った彼らの意外なまでの脆さを実感していただけに、今回出現した「新たな敵」には、統合軍は全く意表をつかれた形となった。
 両基地を襲った武器の破片は分析の結果、おそらくロケット弾であろうという見解が出された。デストロイドを破壊したのは弾体に仕込まれた多数の子弾であった。地球の対装甲弾に似ていて、目標に命中すると猛烈な高熱の噴流を発し、装甲を穿つ。中の搭乗員は一瞬で蒸し焼きになってしまう仕組みだ。
 これらのサンプルや映像などは、首都のマクロス・シティに送られ、さらに詳細な分析に付されることとなるであろう。
 しかし現時点では、統合軍も周辺地域のパトロールを強化する、といった対応しかできないのが現状であった。アングレームとその近隣の都市には警戒の強化をする旨の通達が出され、以後、同様の攻撃を受けた場合を想定してのマニュアル作成が開始された。

 しかし、第二の事件はその日の夜に起こった。
 アングレーム市から600キロ以上離れたマルヌ市に、突然の砲撃の雨が浴びせられたのは、夜も更けてからのことであった。
 統合軍の対応は迅速と言ってよかった。この街はアングレーム同様、郊外に弾薬庫が位置している。すぐさま近隣の都市からもパトロール隊が急行し、弾薬庫へと向かった。
「あれだ!」
 対空ミサイルの待ち伏せを避け、低空から進入したバルキリー隊は、闇の中に幾条ものオレンジ色の光を発見した。敵はすでに弾薬庫の近くまで迫り、防衛隊のデストロイドと激しい戦闘を繰り広げている。
「全機、対地攻撃用意」
 航空隊の到着に呼応して、照明弾が打ち上げられた。明るい緑白色の光が、4つの巨大な影を浮かび上がらせる。
「見たことのないタイプだ、デカいぞ!」
 バルキリー隊は、ガウォークに変形すると、すぐさま空からの攻撃を開始した。
 ガンポッドの弾丸がゼントラーディのバトルスーツの脚をかすめ、石ころだらけの地面に弾きかえされる。
 バトルスーツは、巨体に似合わぬ動きで手近の岩に身を隠した。前方からの攻撃が岩を砕き、石のくずがパラパラと降りかかる。
 操縦者の兵士は、いまいまし気に舌打ちをした。
「ソルダム兄貴、どうする、挟み撃ちになるぞ」
「慌てるな。全部織り込み済みだ」
 伝える方も、受けるソルダムの声にも、緊張感はあるものの、焦りは微塵も含まれてはいない。むしろ余裕の響きさえある。
 彼らにとって、戦いとは日常のことであった。むしろ、このところの息をひそめた毎日の方が、よほど彼らには堪えていたのだ。
「よし、いいもの見せてやる…」
 ソルダムは通信機のスイッチを入れた。
「ドルシラ!位置を送る。この距離でやれるか」
 その通信は丘一つ隔てた陣に届いた。そこにはドルシラ自慢のロケット発射システムが隠してある。陣の主はヘルメットをはずした姿で指揮所の簡易椅子に腰掛け、貧乏揺すりをしていたが、通信を聞くやいなや勢いよく立ち上がった。
「あいよ!ティーラ!見えてるね、そっちのデータも送りな」
 その声を合図に、彼女の部下たちはきびきびと行動を開始する。
「射撃要求きました!データ転送」
「射角修正、左08、前02、上01!」
「上02だ」
 ドルシラの声に、算定員は驚いて顔をあげた。
「え…だってコンピュータの計算が」
「風が変わる。早く、味方に当てたくなかったらあたいの言うとおりやりな」
「りょ…了解。上02」
「射撃準備ヨシ!」
「よし、撃て!」
 轟音と共に吐き出されたロケット群は、大きな弧を描いて戦闘が行われている方向に向かった。ドルシラはそれらが丘の向こうに消えるのを見届けると、愛用の双眼鏡をケースにしまった。
「さぁ、撃ったらすぐ移動だヨ。もたもたするな」

 20秒後、バルキリー隊のパイロット達は、地上に無数の火球が一瞬、撒かれたように広がり、消えるのを見た。
「隊長、トマホーク隊が!!」
 デストロイド隊の展開していた地点は、闇の中にいくつもの炎が点在するのが見えるのみになっていた。沈黙する鉄の巨体が、わずかに炎に照らし出されている。
「いかん、この前と同じ武器だ、弾薬庫に接近される!全機変形、地上での近接戦闘を行う」
 6機のバルキリーは二手に分かれ、敵の行く手に立ちはだかった。パイロット達の額に、緊張の汗が流れる。
「あまり距離をとると上からの攻撃にやられるぞ。こちらの方が多い。格闘戦に持ち込むんだ」
 コックピットのモニターには、赤外線暗視モードの画像がうごめいていた。ゼントラーディのバトルスーツの特徴である、大きなバックポッドの熱が鮮明に捉えられている。
 ガンポッドが一斉に火を噴き、曳光弾の光が闇夜を飾った。
 バトルスーツは洗練されたフォーメーションで、互いに援護し合いながら小移動をくり返し、弾薬庫から少しずつ遠ざかりながらも、やすやすとパトロール隊の鋏撃に逢うことはしない。
「このまま押し戻すんだ!他の基地からの応援も来るぞ」
 じりじりと後退する敵に、地球人が優勢を確信した時、敵の一機が何かを放り投げたように見えた。愛機の振動センサーが足元に何かが落ちたのを捉える。
「なんだ」
 次の瞬間、それははじけた。すさまじい閃光と熱が巻きおこり、地球人たちの視力を一時的に奪う。
「手榴弾…ナパーム弾か!?」
 一瞬早く飛びすさり、被害を免れたパトロール隊であったが、体勢を立て直した時はすでに敵の姿を見失っていた。
 辺りは残留熱量が濃く残り、赤外線シーカーは役に立たない。
「隊長、だめです、見失いました!」
「あきらめたのか…」
 パトロール隊はしばらく戦闘態勢のまま、付近の警戒を続けた。しかしそれから間もなく、管制から連絡が入った。それは、またしても彼らが裏をかかれたという内容のものであった。

 ゼントラーディ人たちの真の目的はマルヌ市のはずれにある民間の倉庫街であった。夜中であった事と、住民が避難してしまっていた事が通報を遅らせ、泡をくったパトロール隊が駆けつけた時には、略奪者はすでにいずこかに姿をくらませていた。
 倉庫群のシャッターは紙のように破られ、貴重な備蓄食糧の小麦粉、穀類などが根こそぎ持ち去られていた。冷凍保管庫などもすべて荒らされていたが、不思議と肉類、野菜などは手をつけた跡がなかった。どうやら食べ物として認識されなかったらしい。
「ええい、くそいまいましい。盗賊どもめ」
 市の警備責任者であるマルヌ基地司令が床を蹴る横で、若い副官はさかんに首を捻っていた。
「小麦粉なんかそのまま取っていったって…どうするんでしょう?」
「フン!クレープでも焼くんだろうよ」

 翌日、早朝。
 街の片隅に、どこか落ち着かなげな視線を配りながら、物陰を選んで早足に進む巨人女の姿があった。
 額にはうっすらと汗の玉が浮かびあがり、黒い巻き毛が貼り付いている。アゾニア軍団の中で一番の度胸の持ち主である彼女、ドルシラにとっても、全く未知の敵の街への潜入は心臓にかなりの緊張を強いるものであった。
 ドルシラは昨夜の戦闘の後、単身この街にやってきた。それは彼女自身が言い出したことで、アゾニアはあまりいい顔はしなかったが、生きた情報の誘惑と、ドルシラのあまりの押しの強さに負け、結局は潜入を許可することとなった。
 彼女は郊外の岩場に戦闘ポッドを隠すと、ボディアーマーを脱ぎ、街に潜入して朝を待ったのだった。
 街はマイクロンと巨人とが共用できるよう、工夫をこらされた造りになっていた。主要な通りは必ず中心が巨人用に深く掘り下げられており、それをはさんで両側にマイクロン用の通路があった。所々に案内板のようなものがあり、敵の文字とゼントラーディの文字が並記してある。
 ドルシラは小型カメラに次々と街の様子を収めながら、小首をかしげた。実際、この街は彼女の理解を越えたものが多すぎた。第一に無防備すぎる。フェンスで囲われているのはほんの一区画で、検問所も監視カメラもない。敵――つまり自分たちの攻撃があったばかりだというのに、武装した兵士で埋め尽くされることもなく、彼女のような侵入者をやすやすと許している。
 朝早いという事もあってか、ほとんど人影はない。それでも小走りに徘徊するうちに、ついに彼女の目に探し求めていたものの姿が入ってきた。
「ヘイ!あんたら」
 二人の同胞の男は、いきなり声をかけてきた戦闘服姿の女に、いくらか戸惑ったようだった。
「ここから脱出するだろ?連れてってやるからあたいに付いてきな」
 ところが彼らは、ドルシラの予想とは全く違う反応を示した。
 二人は互いに、迷ったような視線を交わしていたが、やがて一人が意を決したように首を横に振った。
「俺達…行かないよ」
「大丈夫だって。あたいらの仲間は大勢いるんだ、男の兵士だって」
「そうじゃない…。俺達はずっとここにいると決めたんだ」
「なァんだって!?」
 黒い瞳が、大きく見開かれた。
「気は確かかい!?こんな所にいつまでもいたら、殺されちまうよ!」
「君は何か誤解している。俺達は捕まってる訳じゃない」
「なん…」
 理解不能の事態にドルシラは言葉を失い、後ずさった。それでも必死に仲間への説得を続けようと口を開きかけたとき、不思議な音が耳に入ってきた。
 どこから聞こえてくるのだろう。風にまぎれ、切れ切れにではあったが、耳をくすぐるその響きは不思議と心地よく、思わずドルシラは首を傾け、その音に聞き入った。
 その様子に、男の一人が怪訝そうに声をかけてきた。
「知らないのか?君…あれは歌だよ」
「ウタ!?」

 同じ頃、アゾニアの野営地でも同じ歌を聞いている者がいた。
「また聞こえてきました…」
 通信を担当しているクリエラは、首をひねる部下からレシーバーを受け取ると、耳に当てた。
「これ…何なんだろう…前から時々聞こえてくるんだけど…」
「例のアレか?」
 クリエラはうなずきながらセミロングの髪をかきわけ、レシーバーをはずした。
 彼女はとある戦艦の通信長であった。彼女をはじめ数名が、この星を攻撃したとき不思議な音を聞いたと言っていて、フィムナもその一人だった。が、彼らの説明ではアゾニアはもちろん、他の誰にもそれがどんなものか、うまく伝えることはできていなかった。
 レシーバーを耳に当てたアゾニアの口から、小さなつぶやきがもれた。
「これは、あの時の…」
 それは以前にも聞いた覚えがあった。あの時と全く同じものなのかは分からなかったが、確かに、ランと一緒に偵察に出て敵と遭遇した時に聞いた、不思議なものと同じようであった。
「………」
 アゾニアは何かに誘われるかのように、ふと目を閉じ、聞き入った。
 女の声であった。少し低めの、静かに透き通った声。全く未知の体験であった。
 何かのメッセージなのであろうか。彼女は地球の言葉を覚えようと努力はしていたが、まだわずかの単語を拾える程度であった。
「レコードとれるか。あとで翻訳にかける」
 再び目を閉じる。
 透明な音の響きは、まるで砂漠の大地に水が注がれるように、戦いに乾き、ひび割れたアゾニアの心に染み込んでいく。
「…シャ…ラ……ラ…」
 ふいに、アゾニアの口がぎこちなく開いた。
 驚いて振り返ったクリエラの目の前で、敬愛する女リーダーはその調べの一部をなぞり、しばらく考え込んでいた。

 ドルシラのリガードが戻ってきたのは翌朝のことであった。
 彼女の報告は、アゾニアに貴重ないくつもの情報をもたらしたが、同時にひどく不機嫌にもした。女ボスは腕組みをし、足を作戦卓の上に投げ出したまま、身じろぎもせずに卓上モニターの写真群を睨みつけている。
「なんだよアゾニア、あたいが信じられないってのかい?」
「お前を信じてないなんて誰も言ってない。お前の言ってることが信じられないんだ」
「なんだよォ…それ。そんなこと言うんならあたいだって信じられないよ」
 ドルシラはあのマイクロンの街で体験したことを正確にアゾニアに報告した。忘れようもない。二人の同胞は彼女に向かって言ったのである。
「夕べの攻撃はあんたたちかい?…だったらこんな事はもうやめたほうがいい…彼らを甘く見ちゃ駄目だ。彼らは俺達にはない、すごいものを持ってるんだ」
「すごいものだ…?」
 アゾニアの脳裏に、今までの様々な光景が浮かんだ。驚くべき速さで建設される建造物、街のそこここに存在する見慣れぬ物。そして、彼女はこの星のマイクロンが、今の彼らと同じように、男と女が雑居していることも知っていた。
「我々にないもの…」
 さらには、彼らの街から流れ来る、あの不思議な響き…
「そうだ、あれだ。ランはどこだ。ランを呼んでこい」

「おい、おいってば!」
 その声にランは我に返った。傍らには背の高い、目つきのやや鋭い青年が半ばかがむように立ち、こちらをのぞき込んでいた。
「どうしちまったんだ。スイッチが切れたみたいになりやがって」
「あ…ケティ…オル…」
 ランは気恥ずかしさに顔を赤らめながら答えた。居眠りでもしていたのだろうか。
「さっきから何回も呼んでるんだぜ。アゾニアが呼んでるぞ」
「えっ本当?」
 ランは椅子から降りると、天幕を飛び出していった。
「…へんな奴」
 ケティオルは誰にともなく肩をすくめると、天幕を出た。そこにたまたまソルダムの姿を認めた彼は、走っていくランの後ろ姿を見ながら、親指でこめかみのあたりを叩いてみせた。
「アイツ、ここ打って少しおかしいって、本当なのか?」
 ソルダムは顔をしかめた。
「誰に聞いた」
「…ドルシラだよ」
 ソルダムは軽い舌打ちの音をさせると、苦々しげにつぶやいた。
「…余計な事べらべらしゃべりやがって…」
「…本当なのか?」
 ソルダムは睨み返した。
「違う。記録参謀としてはどこもおかしくはない。多少怪我の後遺症があるかも知れんが…それだけのことだ。いいか、絶対に言うなよ。ドルシラにもよく言っとけ」
「え…ソルダムが言ってくれよ…」
「なんでだ」
「あいつ、すぐつっかかってくるんだ…女は苦手だよ…」
 それを聞いたソルダムは、話にならないといった風にため息をつくと、くるりと背を向けて歩き出した。
「ここにいる以上、嫌でも女と口きかなきゃならないんだぞ」
 亜麻色の髪の精悍な青年は、格納庫として使っている区画へと向かう途中だった。前回の戦闘で使用したバトルスーツの整備に立ち会わなくてはならない。早足で追いかけながら、ケティオルはなおも食い下がってくる。
「なあ…俺達、いつまでこうしてなきゃいけないんだと思う?」
「なんだ、もう弱音か」
「そうじゃねえけどよ…」
 ケティオルは決して臆病者ではない。戦闘工兵の彼は、爆発物に関する知識が深く、戦闘ポッドやバトルスーツの扱いも優れている。二回の戦闘でも、敵地に乗り込んで物資を奪ってきたのは彼なのだ。
 バラキューダと呼ばれる偽装網で覆われた一角までたどりつくと、ソルダムは自分のバトルスーツの脚に手をつき、兵士たちの作業を見守った。
「俺だって最初は迷った。やっと出会えた友軍は、女の部隊だったしな…けど、俺の艦の仲間はほとんどあの黒い水に流されちまって、俺自身ボロボロだった」
 ソルダムの頭には、あの時の悪夢が今も鮮明に甦る。艦が不時着の際に大地に刻んだ溝が大量の雨水を呼び込み、恐るべき勢いで全てを押し流した。2000メートルの艦が横に傾き、逃げ遅れた多くの戦友が黒い波濤に飲み込まれてゆくのを、彼はただ見ているしかなかったのだ。
「あの時はもうあきらめかけてた…アゾニアについていこうと思ったのは…半分はヤケさ。どうせ死ぬんなら、何でもいい。行けるとこまで行ってやろうってな…結果的にそれで正解だった訳だ。俺はまだ生きてる。あれこれ考えても仕方ない」
「……」
「それに、アゾニアは俺が今までに見た、どの指揮官より優秀だ。お前もそう思ったんじゃないのか」
「……」
 ケティオルは無言だったが、ソルダムの見解には同意しているようであった。
 そうしている間にも、兵たちが報告のためや、指示を求めて入れ替わり立ち替わり現れる。彼らはそれぞれに責任のある立場だ。浪費している時間はない。
「とにかく、愚痴なら多少は俺が聞いてやる。けど兵共の前では絶対妙な事は言うなよ」
 僚友の胸を軽く叩くと、亜麻色の髪の男は、作業をする整備員たちの輪の中に入っていった。

 録音されたものを聞かされた記録参謀は、しばらくして無表情に首を振った。
「知らない。聞いたこともない」
「…そうか」
 アゾニアは残念そうな顔をしたが、フィムナは不審の表情を浮かべた。
(参謀だってあれを聞いてるはずなのに…)
 あの時、500万の艦艇はこの惑星を取り囲んだ。だれも勝利を疑う者などいなかった。事実、この小さな星は艦砲のビームに焼き尽くされ、一瞬で灰になった。
 が、次の瞬間彼女は見たのだ。彼女をはじめ艦橋や指揮室にいる者の多くが。
 しかしそれをアゾニアに伝えたくとも、どうやって言葉にしたらよいか分からない。また、仮に言葉にできたとしても、それをもってアゾニアがあれを思い描くのは不可能だろう。
「参謀!」
 突然の悲鳴に似た声が、フィムナの思考を遮った。
 ランの額から冷や汗が吹き出していた。顔面は蒼白で、兵士に支えられ、やっとのことで立っている。膝をつかないでいるのが精一杯のようだった。
「だ…大丈夫だよ…」
 言ってはいるものの、すでにその呂律が回っていない。
 ランはすぐに部屋に運ばれた。ショック症状にも似た様子で、フィムナはひどくうろたえたが、しばらく安静にするうちに顔にも赤みがさし、意識もはっきりとしてきた。
 心配そうにベッドをのぞき込むフィムナの脇で、ランは上を向いたまま、かなり長い間何かを考えているようだった。ややあって、つぶやくように声を出した。
「フィムナ…さっきの、やっぱり聞いたことがあるような気がする」
「え…」
 フィムナの顔に期待の色がさした。少しでも、思い出してくれたのだろうか。
「でも…それがいつだったか、どこで聞いたんだか、分からないんだ…すごく昔のような気もするんだけど、そんな訳ないし…考えてるうちに、気分悪くなっちゃって…」
「参謀…」
 記憶が混乱して、出来事の順序が分からなくなっているのだろうとフィムナは考えた。
 断片的にでも、何か思い出すものがあるならば、やがてそれらがもつれた記憶を解きほぐす糸口になるのではないだろうか。しかし、そのために上官が苦しむのは本意ではない。
「あせらなくてもいいです。きっと思い出しますから。さ、お休みになってください」
 少し安心したのか、ランは小さく微笑むと目を閉じた。
 やがて、ゆるやかな眠気が彼女を誘いにやってきた。
 眠りの世界に入る途中のほんの刹那、ランの意識と無意識のはざまに一つの情景が浮かんだ。
 見たこともない、不思議な緑色の風景。耳をなでる優しい調べ。
「ああそうだ。あれは『歌』というんだった…」
 それが彼女自身の声だったのか、それとも別の誰かの声だったのかは分からない。
 その景色を後にし、少女は深い眠りの国へと落ち込んでいった。
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