TVアニメ「超時空要塞マクロス」の二次創作を公開しています。
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§11 コマンダー・ドール
 マクロス内、統合軍総司令部の長い通路を進む女性士官があった。すれ違う人はみな驚愕や好奇、畏怖、あるいは嫌悪といった感情を、それぞれの形で表現した。それらを露骨に表す者、かろうじて押さえ込む者、様々であったが、いずれにせよまるきり無関心でいられた者は皆無であった。
 いまやドール・マロークス中佐は総司令部のみならず、統合軍全体の有名人であった。というのも、たまたま部隊対抗の格闘技大会が開かれ、そこでも又、ドールはその恐るべき膂力を発揮したのだ。彼女に一瞬のうちになぎ倒された10人の男たちの中には、5人の優勝経験者が含まれていた。
 当初、ヤジを飛ばしていた観衆も、最後に対戦した陸軍の誇る2メートル10センチの巨漢、デュレ一等軍曹がわずか40秒で倒されると、水を打ったように静かになってしまった。
 後にその話を酒の肴にされるたび、デュレは怒るどころか、真っ青になって叫んだという。
「冗談じゃねえ!俺は今まであんな恐ろしい思いをしたことはねぇ。あの女は人間じゃない、あの目、あれは悪魔の目だ!」
 その後、ドールには格闘技系のクラブから勧誘が殺到したらしい。
 中でも女子隊員たちからの支持は絶大なものとなり、その後の「守ってもらいたい士官」ナンバー1の地位にさん然と輝いているという話である。

 ドールがたどり着いたのは情報部長のオフィスであった。情報部長、フェイ少将はにこやかに彼女を迎え入れ、ソファをすすめると、インターフォンに向かって飲み物を持ってくるよう命じた。
 腰掛けようとして、ドールは先客がいることに気が付いた。会釈する赤い髪の男は、顔は知っていたが言葉を交わしたことはなかった。
「ドール中佐、二、三訊きたいことがあるのだが、よいかね?」
「はい」
 当直の兵が三人分のコーヒーをテーブルに置き、退出するのを待って、フェイは話を切りだした。
「中佐…君の艦が、この星に墜落したときの状況について、少し聞かせてもらいたいのだ…」
「墜落した時…ですか」
「ああ、君の艦は比較的損傷の度合いが少なく、生存者も他に比べれば多かった。ここに君の艦の生存者リストがあるんだが…」
 フェイは手元の書類のページをめくりながら言った。
「記録参謀の名がないね。どうしたのだね?」
 記録参謀という言葉を聞いた途端、ドールの胸にちりちりとした痛みが走った。
「…死にました…」
「…理由を、訊いてもよいかな」
 フェイは彼なりに気を遣った訊き方をした。彼がこれまで同じ質問をした相手8人のうち、3人が自分の手で殺した、と返答していた。敵に機密が漏れないようにするためにしばし行われることだと、エキセドルより聞かされていたからだ。
 が、ドールの口から出てきたのは、彼らの予想していなかった話であった。
「…あの黒い水に…」
「黒い水?」
 二人の男は顔を見合わせた。
「黒い水に…」
 自分自身の声がどこか遠くから聞こえてくるように、ドールは感じていた。

 暗い空の下、降り注ぐ驟雨に全身を打たれながらドールは叫んでいた。目の前で怒り狂う黒い奔流に向かって、部下の名を呼び続けた。
「ラン――!」
 彼女には、一体何が起こったのかすぐには理解できなかった。確かにほんの一時間ほど前まで、彼女の部下はそこに眠っていたのだ。意識を失い、何日も眠ったままであった。あるいは、もしかしたらこのまま永久に眠ることになるのかも知れなかった。
 それが、ほんのわずかに目を離した間に、突然目の前から消えたのだ。そして彼女が走り去った先に、この黒いものが横たわっていた。
 ドールはこのような大量の水は見たことがなく、また水の持つ力も知らなかった。凶暴な流れに足をとられかけ、危ういところを部下たちに助けられたところで、その心を絶望が鷲掴みにした。
――まさかこの中に――?
 泥の地面に残された、小さな足跡。部下が残した痕跡はこれだけだった。
 声が枯れるまで、ドールは叫び続けた。
――なぜだ、なぜ私の元からいなくなった。今ほど私が、お前の助けを欲しいと思ったことはないのに、なぜいない。どんなに苦しい時も、二人で助け合ってきたというのに――!

 またあの声だ。あの日以来、ずっと自分を苦しめ続けてきた自分自身の声が、また聞こえてきた。悲しみと怒りと後悔に満ちた、自分でもどうすることもできない心の声が。
 白く凍り付いた空気がうつむいたドールの周囲をおおい、しばしの間時を止めた。
 エキセドルはわずかに顔を曇らせたようだった。一方、フェイはあくまで冷静な視線をゼントラーディ女性に向けていた。
「では、君は部下の死を、その目で確かめたわけではないのだね」
 たたみかけるようなフェイの言葉に、ドールははっとなった。
「は、はい…でも…」
 翡翠色の瞳が伏せられた。あの状況では、とても生きているとは思えない。
 エキセドルはそのやりとりを黙って見ていたが、何か確証を得たようにフェイに目で合図を送った。しばし目線で会話を交わしたあと、フェイは再び口を開いた。
「いや…ありがとう。中佐、参考になった。下がって結構だよ」

 マクロス・シティの空にはちらちらと粉雪が舞い、建物の外に出たドールに予期せぬ身震いを見舞わせた。思わずコートの襟を立てた彼女に、後ろから声をかけた者がある。情報部長のオフィスで会った、赤い髪の男。
「堪えますな。マイクロンの体にこの寒さは」
「エキセドル参謀…」
「体が小さくなると体温が逃げやすくなるのだそうですよ…いかがですかな?お茶になど、つき合っていただけませんか?もっとも、この私がデートの相手では、ご不満でしょうが…」
「い、いえ…」
 エキセドルは屈託なく笑った。彼がどんな話を携えているのかは判らなかったが、とにかくドールは彼の案内で、近頃オープンしたという喫茶店に向かった。
 洒落た店内は若者グループやカップルがほとんどで、小柄な中年男と若い大女との取り合わせは、いやでも他の客の目を引いた。
 エキセドルは、地球流のマナーについてはもうほとんどマスターしたらしい。そつのない動作でドールのために椅子を引くと、メニューを広げて飲み物の説明などをした。
「甘い物はお嫌いですかな?飲み物も基地の食堂よりずっと種類がありますぞ」
 ドールは喫茶店には何度か入ったことはあったが、メニューを自分で選んだことはない。この時も選択権をすぐにエキセドルに預けてしまった。選択肢が多いというのはゼントラーディ人にとって、必ずしも嬉しい事ではないのだ。
「あの…お話というのは…」
「まあ、待ちたまえ、一服いたしましょう」
 やがてミルクティとチーズケーキが二人の前に置かれた。細かく切り刻んだケーキをちまちまと口に運ぶエキセドルの表情は至福そのもので、携えているはずの要件など、どこかへ置き忘れているかにさえ見える。
 二人の紅茶がほぼ空になったところで、やっとエキセドルは口を開いた。
「中佐、どうぞ、ゼントラーディ語でお話しください」
 彼の言葉は、ドールに気を遣ったというよりは、これから話される話題の性質を示唆してるようであった。
「…さて、狼旅団の話を、耳にしたことはありますかな?」
「はい、未だアクティブに活動している残存ゼントラーディ勢力とか」
「うむ、なかなか尻尾を掴ませてくれない連中で、我々も苦労したのだが、最近やっと諜報員の一人が接触に成功し、有益な情報が入手できると期待していたのです…が」
「諜報員?」
「ええ、元、私の艦隊の将校で、地球流の専門教育も受けさせた有能な男です。その彼が先日、バレンシア・シティの郊外で惨殺死体となって発見された…」
 ドールの口元がわずかに引き締められた。
 エキセドルのついた小さなため息は、自嘲の響きを帯びていた。
「もっと早く気付くべきでした…暗号を解読された時点でね」
「暗号を?」
「さよう、なにしろ彼らは、当初から驚くほど我々の情報をよくつかんでおった…こちらの暗号通信が筒抜けになっていたとしか思えない事までね。そこでてっきり内通者の存在を疑ってしまったのです。しかし調査の結果、それは否定された…」
 その調査対象の中に、自分も入っていたのだろうな。とドールは思った。
「無理もないでしょう。常識から言えば、暗号の解読など不可能ですからな。普通の人間には」
 普通の人間、というところを彼は強調したように思えた。大型コンピュータを使っても数ヶ月かかる暗号の解読。しかしそれを直感的にやってのける人間が存在することをドールは知っている。例えば、目の前にいる人物がそうだ。
 エキセドルは話題の核心に入った。
「さきほどのフェイ部長のお話…現在、地上におけるゼントラーディ艦艇の捜索はほぼ完了し、艦名、所属等も判明しています。そのうち、分岐艦隊旗艦のみを対象として乗員の行方調査をしました。記録参謀の中でいまだにはっきりした消息が分からないのは、あなたの部下だけなのです…ドール・マロークス、元、一等中将」
 ドールは眉一筋動かさなかった。しかし、それは外面だけのことであった。激しい動揺の波が、彼女の心を揺さぶっていることは、かすかに震える唇からしぼりだされた声で明白であった。
「まさか…ランが…ランが生きていると!…で、でも…」
 エキセドルはあえてゆっくりした動作で紅茶の最後の一口を飲みほすと、話を続けた。
「証拠はまだありません。が、私も記録参謀だ。今回の件で確信しました…あなたもご存知でしょうが、ゼントラーディ軍の中で対諜報の教育を受けているのは、記録参謀だけですからな。間違いなく、狼旅団には記録参謀がおりましょう」
「そ、それで…」
 問題はその後であった。統合軍はこれまでの方針どおり、彼らをあくまで説得し和平を呼びかけるのか、それとも…
「まだ何とも言えません。私としてはもちろん、無用の犠牲者は出したくないですが、何しろ今は、我々が彼らに振り回されている状況ですからな。しかしいずれ必ず反撃の機会を得ます。その際、あるいはあなたにご協力をお願いするでしょうから、こうしてお話しました…ですが中佐、これはあくまで私の独断です。くれぐれも他言無用にお願いしますぞ」
 エキセドルはウエイターを呼んで会計を済ませると、席を立ちながら小さくつぶやくように言った。
「驚かせて申し訳ないです…が、どうかお気を安らかに…」

 店を出てから、官舎までどうたどり着いたのか、ドールは全く思い出せない。ただ気が付くと自室のベッドの上に倒れ伏していた。
「ラン…本当に生きているのか…」
 この星で、同胞の多くがその後どのような運命を辿ったか、彼女はよく知っている。
 あのひどい有様の地球で、一年近くも生き延び続けていたというのだろうか。どのような奇跡が働いて彼女が生き残ったにせよ、今日までどのように過ごしてきたかは想像を絶する。ドールの胸は激しく痛んだ。
 ドールにとってランは、単なる部下ではない。
 初めて会った日のことは、今でも鮮明に思い出すことができる。着任の挨拶に来たランは、緊張のあまり唇を震わせ、声はうわずっていた。その様子を見て、ドールは笑いがもれそうになるのを必死にこらえながら、自身もきわめて気負って言ったものだ。
「そう堅くなるな。私だってまだ青二才なんだから…」
 その日から、二人は力を合わせ、数えきれぬほどの激しい戦いの日々をくぐり抜けてきた。
 指揮官であるドールがその孤独、不安、迷いをさらけ出すことができる、唯一の存在。いわば、生死を共にした戦友であった。
 その友はあの日突然、彼女を残して消えてしまった。その悲しみと、理不尽な怒りに重い蓋をし、今日までこの未知の世界で生きてきた。が、おそらくはるかに過酷な環境を、彼女の部下は生き抜いてきたのだ。
 果たして、食糧は足りているのだろうか。健康を損ねてはいないだろうか。一緒にいる者たちから、適正な扱いを受けているのだろうか…
 熱い涙が頬を伝った。その生涯でまだ数回しか流したことのない涙を、この晩ドールは戦友に対して捧げ続けた。が、どんなに涙を押し流しても、波立つ心は鎮められるものではなかった。

 昼休みも終わりに近づいた士官食堂で、アランは一人、新聞を片手に食後のコーヒーを楽しんでいた。彼の部下達は早飯で、いつも彼を置いて席を立つが、アランは食事はゆっくり楽しむものとの信念を崩さない。
 一面トップはブリタイ艦修復工事の着工についての記事である。
 この修復計画に統合軍がかける期待は大きい。今の地球では再び宇宙からの攻撃があった場合の対抗手段が何もない。たとえ一隻といえども、索敵能力は飛躍的に向上するし、あるいは対ボドル基幹艦隊戦で用いた作戦も、まだ十分に通用すると統合軍は踏んでいた。
 同じくコーヒーを携えたアレクセイが現れ、向かいの席に腰掛けると、アランは手にした新聞を指してみせた。
「お前の奥さん、ココに勤めてんだろ?何か書いてんのか?」
 アレクセイは苦笑しつつ首を振った。
「本人はその気なんだけどね。資料整理ばかりだってぼやいてたよ。でも、最初はそんなもんじゃないのかな?」
 世界中の各都市の残骸に残されたデータベースから、資料をかき集めるのも大切な仕事だと彼は思うのだが、彼の妻は現場主義らしい。
「あんまり大したニュースないもんな」
 アランは新聞を折りかえした。それまで彼の読んでいた記事が、アレクセイの方へと向く。
 足場にその身の大半を隠した巨大戦艦。それと並ぶ、司令官ブリタイの顔写真が目に入った途端、彼の記憶野で、気にはなっていたが忘れかけていたある二つの符号が一致した。
 友人が急に身を乗り出してきたのを見て、思わずアランはもう一度新聞を折り返してその記事を見た。
「どうかしたか?」
「思い出した…」
「え?」
「ブリタイ司令だ…」
「だから何が?」
「い、いや、ドール中佐を初めて見たとき、どこかで見たような気がしたんだ。そうか…」
 アランは人参を無理矢理口にねじこまれたような顔になった。
「お前ね、そりゃブリタイ司令は立派な軍人だけど、いくらなんだって妙齢の女性にそれは…」
「そうじゃない。顔じゃない。雰囲気だ。あの年齢不相応な貫禄、間違いない」
 アレクセイは力説した。彼は遠巻きにだが、ブリタイを直接見たことがある。その時に感じた、周囲を圧倒する、死の匂いを漂わせたオーラと、ドールの発しているものが似ているのだという。
 その話を聞いて、アランも何かに思い至ったようだった。
「…そうか。ゼントラーディ人は、はじめから用途別に生まれ…いや、製造されてると聞いたことがある…」
 二人とも星間大戦中に、スカル隊の一条大尉が出くわしたブリタイの恐るべき力については聞いている。ドールのずば抜けた体躯と筋力は、ブリタイのそれと全く同質のものであり、彼女がブリタイと同じ立場にいた者であることの証明であった。
「彼女はどこかの艦隊指揮官だったんだ…なるほど、だから中佐か…」
 本来ならもっと高い階級でもいいはずなのだ。しかし、そうするとそれに見合う補職がなくなってしまう。人事部も頭を悩ませた事だろう。
 アレクセイは改めて、あのドールの孤独な姿とともに、子供の頃、職業軍人だった祖父からよく聞かされた話を思い出した。尊敬する祖父は、旧ソ連陸軍の機械化大隊長として、400人以上の部下を統率する身であった。
「隊長なんて、少しもかっこいいもんじゃないんだよ。仕事は忙しいし悩みも多い。けど絶対、弱みや、迷っているところを見せたらいかんのだよ。そうでなければ部下はついてこん…下っ端の方が、どれだけ楽かわからんぞ」
 ドールが実際の年令より大人びて見え、あまり感情を表に出さず、友人を作ろうともしないのは、ほかのゼントラーディ人たちと比べてもはるかに重い、その足につながれた枷の所以であった。
 険しい表情と共に押し黙ったアレクセイであるが、しかし彼は心から願っていた。ドールにその枷から逃れてほしいと。そして、それは可能だと堅く信じていた。

* * *

 アゾニアは荒れていた。薄暗い天幕の中で一人、古い折り畳み机に向かって拳を叩きつけたが、手の痛みは心の痛みをとても打ち消せるものではなかった。
「畜生…畜生…!」
 内通者には、彼女自らが手を下した。こんな不名誉な事を、他の誰にさせられるはずもない。
 死体を敵の目につく所に捨てるよう命じると、アゾニアはこの部屋に姿を消した。入るなと言うまでもなく、その体中から放たれる怒りの波動に恐れをなし、誰も近づこうとはしなかった。一人を除いて。
 何者かが入ってきた気配に、アゾニアは攻撃的な眼光を投げつけたが、気配の主が赤い髪の少女であると分かると、なぜかばつの悪い思いがこみ上げ、そっぽを向いた。平然を装おうとしたが、これは完全に失敗であった。
「アゾニア…」
 スパイを見つけ出したのはランである。彼女は常々、街から出てきたという同胞には用心の目を光らせていた。
 彼女が用いたのはきわめて古典的な手法で、疑わしい者にわざと偽の情報を流し、それに敵が反応したかどうかを観察していただけである。
「何ですぐ殺したの?尋問すれば…」
 激しく両手を机に叩きつける音が、その言葉を遮った。
「これ以上、あたしに恥をかかせようってのか!?」
 その剣幕に、ランは口を閉ざしたが、アゾニアの心情を理解してのことではない。
 同じゼントラーディ人でありながら、あまりに住む世界の違う二人。深く傷つけられたアゾニアの矜持を、ランの目は見ることができないのだ。
 もしかして、余計な事をしてしまったのだろうか――
 ランはうなだれた。いつも冷静なアゾニアが怒りに我を失っている。そんな様子を見るのは、彼女にとってひどく悲しい事であった。
「マイクロンの奴ら…絶対許せねぇ…あたしにあんな不愉快な事させやがって…」
 アゾニアは誇り高き戦士である。その誇り高きゼントラーディの軍人に、同胞を粛正するような真似をさせた敵が許せなかった。
 元来、ゼントラーディ人は諜報活動に無頓着で、それだけにアゾニアも、まさか同胞がスパイとして潜入してくるなどとは思わなかったのだ。
「敵に投降しちまったのは許せないがまだ分かる…だが、敵の手先になって仲間の情報を探りにくるなんて、絶対に考えられない…やっぱり奴ら、あたし達の知らない特殊な洗脳を…ま、まさかあのウタとかいうのが!!」
 不吉な考えが脊髄を走り、アゾニアは体を跳ね上げた。
「もし何らかの洗脳を受けていれば、サイコチェッカーですぐ分かるよ。マイクロンの街から来た人たちにはその兆候はなかった…あのスパイにも」
 ランの冷静な声は、かえってアゾニアの怒りの進むべき方向を一瞬失わせ、感情の乱気流を持ち主の周りに巻き起こしたようだ。
 彼女としては、歌の仕業と言われた方がどれだけ気が楽だったであろう。
 では、どうやってマイクロン達は、我らゼントラーディ人の心を、そのようにたやすく変えられたというのか。
 かつて抱いた疑問が、再びアゾニアの中で鎌首をもたげた。
「そもそも…なんで基幹艦隊はこの星を攻撃したんだ…あたし達の敵は監察軍だろ…?基幹艦隊を動かしてまで、この星を叩かなきゃいけなかった理由は何だ…!?」
 水色の鋭い眼光が、背後の記録参謀を振り返った。
「お前は…知ってるはずなんだ。その理由を…!」
「……」
 ランは彫像のように、その身を凝固させた。
 短い沈黙の後、その彫像が悲しみの表情を作り、身を翻して天幕の向こうに姿を消したのを見て、アゾニアの心に苦い後悔の念がしみ出した。
 全ては終わったことなのだ。感情を相手にぶつけてしまった自分がひどく矮小な存在に思え、それが余計に彼女を苛立たせた。深いため息を吐き出し、必死に心の振り子を平常に戻すと、アゾニアはランを追おうとした。
 急に、そこへ何者かの影が転がり込み、両者はあわや衝突しかけた。危ういところで踏みとどまったアゾニアの目の前に、通信担当の紅潮した顔があった。
「クリエラ…!」
 クリエラは泡を食った様子で激しく咳き込みながら、手にしたレシーバーをアゾニアに向かって差し出した。
「…連絡入った…見つかったって…!戦艦アルタミラが!」
「なんだって…!」
 待ちに待っていた知らせであった。アゾニア軍団の戦いは、これより新たな局面に入ることになる。
コメント
この記事へのコメント
輝の名がっ!
デートに誘い、椅子を引いてくれ、チーズケーキとミルクティーをちまちまと食べて至福を味わう優しい男、エキセドル記録参謀34歳。私もエキセドルとデートしたい。楽しそう。本当にいいキャラですよね。少ししか彼を扱うSSがなくて残念でしたが、ここにあーるではないか!

男ブリタイ閣下のご登場も楽しみにしておりまするぞ。

それにしても、らんこさんはどこからあんなに詳細なゼントラ情報を得られたのですか?私も多少の大御所本は持ってますが、ゼントラーディ人の情報はほとんとない。リアル時代のアニメ雑誌などですか?
2011/07/22(金) 14:02:20 | URL | にゃお #nHTGuFzo[ 編集]
●にゃおさん
>輝の名がっ!
名前だけですみません...

エキセドルさんって会話したらきっと楽しい人だと思うんですよ。
頭いいし話もうまそうだし。
しかしこれで30代とは...フケ顔すぎるっっ!

>リアル時代のアニメ雑誌などですか?
そうです。リアル当時のムック本やアニメ誌です。
雑誌にはインタビューなどでこぼれ話的な情報が載ってたりしますよ。
逆に、新しい(といっても十数年前から)本とかは持ってません。
でも、元々マクロスにおいてはゼントラ関係の設定は少ないです。詳しく設定されてないのです。なのでこのSSにおいては、私の独自設定で補完してます。
2011/07/25(月) 00:15:58 | URL | 作者。 #-[ 編集]
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