記録参謀は、地球の軍隊にはそれに相当する補職がない、ゼントラーディ軍独特のものである。
地球では作戦、情報、兵站、人事等の分野において、参謀、幕僚と呼ばれる者がおり、指揮官が最も適確な判断を行えるよう、それぞれの分野において情報の分析や考察を行う。
複雑化、広域化した近代戦においては特に、検討すべき事項は多岐にわたり、大勢のスタッフが連携し、互いに情報を交換、共有する必要がある。
が、記録参謀はそれらをすべて一人で行う。コンピュータ並の記憶力と計算力、そしてコンピュータでは到底真似できない、人間としての直感と柔軟な判断がそれを可能とするのだ。
ゼントラーディ軍があの大艦隊を円滑に運用させることができるのも、その膨大な作業を集中し、効率化させたためであるが、反面、一人の人間に頼ることによる脆弱さもある。
統合軍が頭を悩ます"狼旅団"と呼ばれる残存勢力。彼らはいかなる経緯か、記録参謀をメンバーに加えたことによって強力な情報能力を得た。その事に気付いたエキセドルは、この記録参謀を捕獲することで、彼らの弱体化を図るという案を提唱した。
しかし、地球人の将校たちにとっては、それはいささか理解し難い点もある。
彼らの疑問点とは、作戦の実現性であった。敵の本拠に潜んでいるであろうそんな人物を、どうやって捕獲しようというのか。
総司令部における作戦会議の席上、高官たちは口々にその点を質した。
「なにも彼らの根城を探そうというのではありません。ちょこっと、出てきていただくのですよ」
エキセドルは恐れ入る様子もなく、さらりと答えた。作戦の責任者はあくまで指揮官であるドールだが、この場においては、主役は作戦を提唱したエキセドルであった。
「おびき出す、という事ですか」
その問いには、ドールが答えた。
「記録参謀は、必ず前線指揮官の側におります…」
常に指揮官の側にあって、情報の分析、判断を継続的に行うのが記録参謀である。
地球人将校たちは失念していたが、ゼントラーディ軍の分岐艦隊とはあくまで第一線の戦闘部隊なのだ。たとえ宇宙の戦闘が地上戦になろうと、記録参謀は必ずその任務に忠実に、指揮官の側にいる。エキセドルもドールも、それを当たり前のこととして認識していた。
「おびき出す、というより、こちらで設定した状況で攻撃してもらう…といったところですかな。彼らの強さは、その奇襲の巧みさにありました。が、今回はそれを封じさせていただきます。目標、時間、場所、それらの選択肢を与えないことで、相手の行動を読みやすくするのです」
エキセドルは中央のスクリーンに地形図を投影した。
「彼らに出てきてもらう場所…それはここです」
それは、とある街を中心とした地図であった。街の周囲は広大な砂漠地帯に囲まれている。もっとも、今の地球は大半がこのような不毛の大地であるので、とりたてて特徴のある街という訳ではない。一本の幹線道路が、街の中央を貫いて西から東に、ゆるやかに蛇行しながら伸びている。
その道路に沿って、街から東に二百キロほどのところに目印がつけてあった。エキセドルはそれをレーザーポインタで指し示した。
「これはゼントラーディ軍の墜落戦艦です。調査はすでに済んでおり、発見した物資もここでこのまま保管する予定だったのですが、彼らの活動地域がこの近くにせまってきましたのでな。移送が計画されておったところなのです…」
「輸送隊を囮に使うというのかね!」
憤慨した様子で、高官の一人が叫んだ。
「彼らは鼻が利きます。ニセのエサなどすぐ見破られてしまう…それとも、街に攻撃をかけてもらう方がよろしいかな?」
「……」
高官が何か口の中でつぶやきながら黙ると、エキセドルは話を続けた。
「彼らは通常のゼントラーディの陸戦隊に比べて、ポッドやバトルスーツの数が少なく、火力に多くを頼っています。そんな彼らがその力を有効に発揮するには、視射界がよく、隠蔽が容易な場所、この地図でいえばこちらを陣にするしかありません」
エキセドルは地図の下側を指した。幹線道路をはさんで広がる砂漠はそれこそ全く何もない、平らな土地であったが、わずかに南側だけには、道路から30キロほどのところに標高の高い地帯がある。そのさらに南に位置するゆるやかな山地の終端部で、低い丘や台地がまばらに配されていた。
エキセドルは図上のその地域をポインタの赤い光でぐるりとなぞると、少々もったいぶった様子で作戦の核心を述べた。
「彼らが囮部隊に攻撃をかけている間に、指揮所の位置をつきとめ、これを急襲して目標を確保します」
「……」
「……」
静けさの中に、驚きと困惑の成分が入り混じり、会議室全体に霧のように広がった。
「…空から探すというのかね」
「ナンセンスだ」
唸るように、一人の幹部が吐き出した。
「範囲が広すぎるし、第一、時間がない。呑気に地上を眺め回している間に輸送部隊は壊滅だぞ」
「そうです。いくら相手が巨人といっても、文字通り砂漠で一本の針を探すようなものですよ」
地球人たちの反論に、記録参謀はぎょろりとした目を二、三回瞬きさせると、にんまりとした笑顔を作った。
「さて、そこからが私の仕事のしどころですよ」
ドールは、自身の部下もそのような癖を持っていたことを思い出した。おそらく彼は、こういった瞬間が楽しくてたまらないのだろう。
「さきほど私は、相手の行動を読むと言いましたな。幸い、これまでの戦闘で、彼らに関する多くのデータを得ることができました」
エキセドルの言うデータとは、書類上の数値や報告の文章を指すのではない。彼の頭の中に構築されたもののことである。
彼はすでに狼旅団による襲撃事件の記録すべてを詳細に記憶していた。戦闘そのものの記録だけでなく、当日の天候、地形、その後の調査で判明した陣地の形跡、その日に放送していたニュースの内容等に至るまで、様々な情報が彼の脳に複合的に蓄積され、適確に再構成されていた。
「例えば彼らはこれまで、月のない夜、曇天や、新月の前後に行動することが多かった。風向きなども多く関係しています。その上で彼らは常に、我々に行動パターンを掴まれまいと、攻撃の時期や手法をずらしている。が、そのずらし方によって、逆に思考のクセのようなものが見えてくるのです…ええ、この指揮官のね」
それはおそらく理論や計算といったものを超えたことろにある、彼、いや、記録参謀にしか分からない独特の思考体系なのであろう。
「各陣地の配置の仕方、戦力の選び出し方、襲撃や退却のタイミング、反撃を受けた場合に、どのような策をとっているか…そういった…行動のすべてから、いろいろなものが見えてくる…そこで、その思考のクセの、いわばマネをするのです」
エキセドルはどこで教わったのか、指の上でポインタをくるりと器用に回転させた。
「これを思考のトレースと呼びます。ゼントラーディ軍でよく使用される情報見積の手段です。これによって、敵の可能行動を考察するのです。この手法は、今回のように特定の相手が敵である場合にはとても有効です」
「そ、それで一体、何が分かるというのです」
「射撃陣地が数個でも見つかればよろしい。それらの位置から指揮所を割り出してみせましょう」
エキセドルはきっぱりと言い切った。
ここにきてやっと地球人たちは、記録参謀の言わんとしている事を理解し、一様に面食らった。彼は敵の指揮官と同じ思考をとることによって、敵陣の詳細な配置をいわば逆算しようと言うのだ。
「そんな勘や憶測で…」
高官の一人は、言いかけてそこで口をつぐんだ。これは地球人の常識で反論できる性質のものではない。彼らの想像の及ばない、全く次元の違うものなのだということに気付いたのだ。
それでも別の高官が、遠慮がちに口を開いた。
「敵がその輸送部隊を襲うという公算はないぞ」
「もちろん、襲っていただけるように仕向けるのですよ。が、もし万一思惑が外れたとしても、それはそれでよろしいではないですか。貴重な物資を無事運ぶためには、少々厳重な警戒をしいてもバチは当たりますまい」
もはや反駁を試みる者は誰もいなかった。
それまで一言も発せず、机の上で指を組んだまま、話を聞いていたグローバルが顔を上げた。
「諸君…エキセドル君以上にここにゼントラーディ軍に詳しい者はいまい。信じてお任せしようじゃないかね…」
そんな折であった。あのアトラス・シティで起きた医師誘拐事件の詳細な報告書がドールの元へと届いた。彼女も事件そのものは知っていたが、詳しい経緯についてはこれまで知る機会がなかった。
「こういった物を、催促しないと出してこないのは地球人の悪い癖ですな。該当地区での事件は、どんなに些細でも詳細を知らせてくれと言ってあるのですが…」
こぼすエキセドルから書類を受け取り、ページを繰って読みだしたドールの顔に、間もなく険しい表情が浮かんできた。
「これは…"彼ら"の仕業でしょうか…」
「おそらく。彼らの現在の活動地域からして、間違いないでしょう」
エキセドルは答え、ドールの様子を確認するかのようにちらりと横目を使った。
「危険を冒してまで、医者をさらい、治療させようとした人物。なかなか興味深いですな」
「……」
そのエキセドルの言葉を、ドールは聞いていなかった。報告書に記された、ゼントラーディ人が語ったという「患者」の様子。墜落時に頭部を打ち、十日以上意識不明であった人物…
書類を持つ手が震えた。
「間違いない…ランの事です…」
「……」
ドールは、あの黒い雨が降る日のことを思い出した。あの日、彼女の部下は突如、昏睡状態から目を覚まし、豪雨の中に飛び出して、それきり姿を消してしまった。
そしておそらくは、あの激しい濁流に飲み込まれてしまったのだ。
付き添っていた兵士は泣きながら、ランがまるで理性を無くしたかのように怯え暴れ、周りの者のことすら分からない様子であったと語った。
あの時、自分が側にいればこんな事態にはならなかったはずだ。ドールは今でもそのことを悔いている。
「そうですか…やはり…」
これまでの検証から、"狼旅団"が擁しているのは、第109分岐艦隊の記録参謀であることはほぼ確実であると判断していたが、これはそれをさらに裏付けるものであった。
「しかし、記憶が…そのような事、あり得るものでしょうか…」
ドールには、あの超人的な記憶力を持つ記録参謀が記憶をなくすなど、とても信じられない。
「我々とて、生身の人間です…しかし、記録参謀の持つ戦闘メモリーが失われるとは考えにくい…となると、後天的な記憶に何か、ということもありますな…」
「……」
「いずれにせよ…保護しさえすれば、詳しい症状も分かりましょうし、治療の手だてもあるでしょう…」
エキセドルとしては、それ以上に言いようがなかった。
ドールの手から書類を返してもらうと、彼は見るともなくページをめくりながら、以前から気になっていた事を口にした。
「それにしても…彼らの…目的が知りたいものですな」
「目的?」
「他のゼントラーディ残存勢力は、地球の街を戦力と捉え、少しでも打撃を与えようと全力で攻撃してくる傾向がありました。それに対し、彼らは最小限の戦力をもって何かを奪うなりすると、すぐに姿をくらまし、移動する…極力、力を温存して息を潜ませているのは、その先に何か目的があるからだとは思えませんか」
「もしや…いまだ基幹艦隊からの救援が来ると信じているのでは…」
「いや、それはあり得ないでしょう。あれだけの情報力を持っているのですから」
「では……」
ドールには全く想像がつかなかった。
「ま、その点を推察するにはあまりにデータ不足ですな。あるいはそれが分かれば、交渉の糸口が掴めるやもと思ったのですが…」
「いえ、もうその必要はないでしょう。エキセドル参謀…」
「ほう」
エキセドルがいささか意外に思うほどに、ドールは明言した。
「この作戦で目標を確保すれば、彼らはもはや力を充分に発揮できません。士気も大いに下がるはずです。交渉するのでしたら、それからにしてください…」
ドールはエキセドルに一礼すると、その場を去った。
エキセドルはしばし、大きな目をさらに大きく見開き、遠ざかるドールを眺めた後、小さな微笑を浮かべて一人ごちた。
「頼もしいことです…ま、ブリタイ閣下ほどではありませんが…」
その日、ドールは珍しく真っ直ぐに自宅に帰ることなく、ぶらぶらと当てもなく街をさまよい歩いた。
彼女の頭からは、あの報告書の内容がこびりついて離れない。
――記憶が――
やはり、あの時の頭の怪我はそれほどの深刻なダメージだったのだ。
だとしたら…
――まさか、私のことも――
不吉な考えを振り払うように、ドールは頭を振った。
その時、ふと優しい音が耳に流れ込み、彼女の足を止めた。
「歌…」
気が付くと、いつの間にか小さな公園にたどりついていた。よく手入れされた花壇を飾る春の花々が、夕暮れの光を浴びている。
歌は公園に設置された街頭スピーカーから流れていた。いつも街には音楽が流れている。最初は、ただの驚きであった。次は、物珍しさだった。最近になってやっと、歌の持つメッセージというものに心を向けることができるようになってきた気がする。
どこか寂しげでありながら、颯爽としたメロディ。水のように澄んだ調べ。奇しくもそれは、あのアゾニアの心を捉えた曲と同じものであった。
過ぎ去った日々よ、もう一度…
その一節はまるで、過去の世界に置き忘れたものを必死に探し求める、自身の心を映し出しているかのようで、ドールはしばらくその歌に聴き入っていた。
「いい曲でしょう。私も大好きなの」
振り向くと、そこには見知った女性の顔があった。面長のすんなりとした美人。長い金髪を束ね、薄手のニットにジーンズ、統合軍放出品の皮ジャンパーという活動的ないでたちである。
「ターニャさん…」
「はい、そのまま」
すかさず、タチアナは愛用のカメラを向け、シャッターを切った。パシャリという音。今では少なくなったアナログ式のカメラは日本製の一眼レフで、彼女が学生時代、苦労して買ったという自慢の品だ。
「初めて会った頃より、ずいぶん表情が出てきてるわ」
レンズにキャップをはめながら、タチアナは言った。
「以前はゼントラーディ人はすぐ見分けがついたの。目つきが鋭くて、表情が乏しくてね。でもこのごろはみんな、色んな顔をするようになってきた…」
続いてタチアナは自分の思いを語った。ゼントラーディ人皆が、人間らしさを取り戻してくれればいいと願っていること。そのために自分も何かできないかと思っていること。いかにも彼女らしい、純粋な願いであった。
「今、デスクに根回し中なんだけど…取材したいテーマがあるの。なるべく多くのゼントラーディ人に話を聞いてみたいのよ。彼らにとって、本当に必要なものは何か。私達地球人はまだまだあなたたちについて、表面的な理解しかしてないと思うの。本当はもっと知るべきことがあると思うのよ。そうすれば…きっと両者はもっと仲良くなれるわ」
タチアナは、自分がそのようにゼントラーディ人に興味を持つきっかけになったのも、あなたのおかげだと言って微笑んだ。
「それで、取材したことをまとめて、いずれは本を出版したいわね。昔からの夢なの」
「夢…?」
「そう、将来やりたいことや、こうなりたいと思う自分の姿ね」
「夢…」
ゼントラーディ人にとって、夢とは無縁のものであった。明日、生きているかどうかは分からない、その日その日を命令で動くことしかできない彼らには、先のことを思い描くことなど、思いもよらない事であった。
いや、ドールの知る限りたった一人、夢を語った人物がいる。
長い銀髪の、美しい人であった。金色の鋭い眼光を向けていた先は、余人には理解し難い、あまりに遠くであった。
「私は、知りたいのだ…」
そう言ったその人の顔は、今のタチアナと同じように、まだ見ぬ未来へのあこがれに満ちていた。ドールはその心を理解はできなかったが、その輝く瞳と言葉は何か尊いもののように思え、心の奥底に大切にしまわれた。
だからこそ、彼女は生きる選択をしたのだ。でなければ、自分は今ここにはいないだろう。あの黒い雨の降る日、生き残った部下たちと共に死を選んでいたはずだ。
――そうだ。あの方の代わりに、私はこの世界を見ようと、決意したのだったな…
あの時の決意は間違っていなかったのだ。今、生あるおかげで、失ったと思っていた者に、再会するチャンスを得ることができたのだから…
「夢とは…きっと、人に力を与えてくれるものなのですね…」
ドールのつぶやきに、タチアナは春の風のような笑顔をひらめかせた。
「ええ、きっとそうね。あなたも、何か夢を持った方がいいわ」
「……」
ドールはしばらくの間考え込んでいたが、少し困惑したような、申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「今は、重要な任務があって、他のことは考えられないのです…」
「そうなの。忙しいのね」
民間人であるタチアナは当然、ドールの新しい任務など知るよしもない。
「でも、それが達成できたら、私も、その先の未来を考えることができるような気がします。いえ、きっと…」
彼女にとって、未来を思い描くというのはまだ難しいことであった。
が、苦楽を共にしてきた唯一の友が側にいれば、何かが見つけられるような気がするのだ。いつも二人で助け合ってきた。二人でなら、慣れぬこの世界でもきっとうまくやっていけるはずだ。
彼女を置き去りにして、自分だけ前へ進むことは許されない。それがドールの固い決意であった。
「任務、がんばってね。また暇になったら遊びにいらっしゃいな。今度は簡単なパスタ料理の作り方を教えてあげるわ」
タチアナはカメラのケースを担ぎなおした。
「じゃあ、この辺で失礼するわ。そろそろアリョーシャも帰ってくる頃よね」
手を振りながら、夕暮れの景色の中に軽やかな足取りで去ってくタチアナを、ドールはいつまでも見送っていた。
ついにドールが旅立つ日がやってきた。
この作戦は極秘のため、団結式も行われない、ひっそりとした門出である。
マクロス・シティからは三個飛行隊が、ニュー・バルナ・シティへと向けて飛び立った。表向きはパトロール隊の強化という名目である。
その中に、アラン・ベルナール率いるパンサー隊があった。一方、僚友のアレクセイはこの特殊部隊に加わることなく、通常の任務のままである。
「こういう場合には家族持ちは後回しにするもんだと誰かが…多分マクレーン隊長だと思うが、アドバイスしたらしいんだ」
アランは説明した。
「……」
部隊の選出とは気重かつデリケートな仕事である。ゼントラーディ軍にいた頃には考える必要のないことも配慮しなければならない。家族の意味を知らない彼女が、ゼントラーディ人であるがゆえの反感を買わないよう、マクレーンは気を遣ったのだろう。
一方、教導隊の人々はドールのために内輪の壮行会を開き、口々に激励の言葉をかけた。
「体に気をつけてな。がんばってきなさい」
マクレーンは、なぜドールが今回の指揮官に志願したのかは知らない。
故に、今回の作戦にかける彼女の意気込み、そして一見静かなその表情からにじみ出る激しい闘志を感じ、漠然とした不安を覚えずにはいられなかった。
やはりゼントラーディ人の精神は、戦いに飢え、求めてやまないものなのか。
マクロス・シティを離れてゆく輸送機の後姿が、まるで解き放たれた野生の鷲のように、彼には感じられるのであった。
地球では作戦、情報、兵站、人事等の分野において、参謀、幕僚と呼ばれる者がおり、指揮官が最も適確な判断を行えるよう、それぞれの分野において情報の分析や考察を行う。
複雑化、広域化した近代戦においては特に、検討すべき事項は多岐にわたり、大勢のスタッフが連携し、互いに情報を交換、共有する必要がある。
が、記録参謀はそれらをすべて一人で行う。コンピュータ並の記憶力と計算力、そしてコンピュータでは到底真似できない、人間としての直感と柔軟な判断がそれを可能とするのだ。
ゼントラーディ軍があの大艦隊を円滑に運用させることができるのも、その膨大な作業を集中し、効率化させたためであるが、反面、一人の人間に頼ることによる脆弱さもある。
統合軍が頭を悩ます"狼旅団"と呼ばれる残存勢力。彼らはいかなる経緯か、記録参謀をメンバーに加えたことによって強力な情報能力を得た。その事に気付いたエキセドルは、この記録参謀を捕獲することで、彼らの弱体化を図るという案を提唱した。
しかし、地球人の将校たちにとっては、それはいささか理解し難い点もある。
彼らの疑問点とは、作戦の実現性であった。敵の本拠に潜んでいるであろうそんな人物を、どうやって捕獲しようというのか。
総司令部における作戦会議の席上、高官たちは口々にその点を質した。
「なにも彼らの根城を探そうというのではありません。ちょこっと、出てきていただくのですよ」
エキセドルは恐れ入る様子もなく、さらりと答えた。作戦の責任者はあくまで指揮官であるドールだが、この場においては、主役は作戦を提唱したエキセドルであった。
「おびき出す、という事ですか」
その問いには、ドールが答えた。
「記録参謀は、必ず前線指揮官の側におります…」
常に指揮官の側にあって、情報の分析、判断を継続的に行うのが記録参謀である。
地球人将校たちは失念していたが、ゼントラーディ軍の分岐艦隊とはあくまで第一線の戦闘部隊なのだ。たとえ宇宙の戦闘が地上戦になろうと、記録参謀は必ずその任務に忠実に、指揮官の側にいる。エキセドルもドールも、それを当たり前のこととして認識していた。
「おびき出す、というより、こちらで設定した状況で攻撃してもらう…といったところですかな。彼らの強さは、その奇襲の巧みさにありました。が、今回はそれを封じさせていただきます。目標、時間、場所、それらの選択肢を与えないことで、相手の行動を読みやすくするのです」
エキセドルは中央のスクリーンに地形図を投影した。
「彼らに出てきてもらう場所…それはここです」
それは、とある街を中心とした地図であった。街の周囲は広大な砂漠地帯に囲まれている。もっとも、今の地球は大半がこのような不毛の大地であるので、とりたてて特徴のある街という訳ではない。一本の幹線道路が、街の中央を貫いて西から東に、ゆるやかに蛇行しながら伸びている。
その道路に沿って、街から東に二百キロほどのところに目印がつけてあった。エキセドルはそれをレーザーポインタで指し示した。
「これはゼントラーディ軍の墜落戦艦です。調査はすでに済んでおり、発見した物資もここでこのまま保管する予定だったのですが、彼らの活動地域がこの近くにせまってきましたのでな。移送が計画されておったところなのです…」
「輸送隊を囮に使うというのかね!」
憤慨した様子で、高官の一人が叫んだ。
「彼らは鼻が利きます。ニセのエサなどすぐ見破られてしまう…それとも、街に攻撃をかけてもらう方がよろしいかな?」
「……」
高官が何か口の中でつぶやきながら黙ると、エキセドルは話を続けた。
「彼らは通常のゼントラーディの陸戦隊に比べて、ポッドやバトルスーツの数が少なく、火力に多くを頼っています。そんな彼らがその力を有効に発揮するには、視射界がよく、隠蔽が容易な場所、この地図でいえばこちらを陣にするしかありません」
エキセドルは地図の下側を指した。幹線道路をはさんで広がる砂漠はそれこそ全く何もない、平らな土地であったが、わずかに南側だけには、道路から30キロほどのところに標高の高い地帯がある。そのさらに南に位置するゆるやかな山地の終端部で、低い丘や台地がまばらに配されていた。
エキセドルは図上のその地域をポインタの赤い光でぐるりとなぞると、少々もったいぶった様子で作戦の核心を述べた。
「彼らが囮部隊に攻撃をかけている間に、指揮所の位置をつきとめ、これを急襲して目標を確保します」
「……」
「……」
静けさの中に、驚きと困惑の成分が入り混じり、会議室全体に霧のように広がった。
「…空から探すというのかね」
「ナンセンスだ」
唸るように、一人の幹部が吐き出した。
「範囲が広すぎるし、第一、時間がない。呑気に地上を眺め回している間に輸送部隊は壊滅だぞ」
「そうです。いくら相手が巨人といっても、文字通り砂漠で一本の針を探すようなものですよ」
地球人たちの反論に、記録参謀はぎょろりとした目を二、三回瞬きさせると、にんまりとした笑顔を作った。
「さて、そこからが私の仕事のしどころですよ」
ドールは、自身の部下もそのような癖を持っていたことを思い出した。おそらく彼は、こういった瞬間が楽しくてたまらないのだろう。
「さきほど私は、相手の行動を読むと言いましたな。幸い、これまでの戦闘で、彼らに関する多くのデータを得ることができました」
エキセドルの言うデータとは、書類上の数値や報告の文章を指すのではない。彼の頭の中に構築されたもののことである。
彼はすでに狼旅団による襲撃事件の記録すべてを詳細に記憶していた。戦闘そのものの記録だけでなく、当日の天候、地形、その後の調査で判明した陣地の形跡、その日に放送していたニュースの内容等に至るまで、様々な情報が彼の脳に複合的に蓄積され、適確に再構成されていた。
「例えば彼らはこれまで、月のない夜、曇天や、新月の前後に行動することが多かった。風向きなども多く関係しています。その上で彼らは常に、我々に行動パターンを掴まれまいと、攻撃の時期や手法をずらしている。が、そのずらし方によって、逆に思考のクセのようなものが見えてくるのです…ええ、この指揮官のね」
それはおそらく理論や計算といったものを超えたことろにある、彼、いや、記録参謀にしか分からない独特の思考体系なのであろう。
「各陣地の配置の仕方、戦力の選び出し方、襲撃や退却のタイミング、反撃を受けた場合に、どのような策をとっているか…そういった…行動のすべてから、いろいろなものが見えてくる…そこで、その思考のクセの、いわばマネをするのです」
エキセドルはどこで教わったのか、指の上でポインタをくるりと器用に回転させた。
「これを思考のトレースと呼びます。ゼントラーディ軍でよく使用される情報見積の手段です。これによって、敵の可能行動を考察するのです。この手法は、今回のように特定の相手が敵である場合にはとても有効です」
「そ、それで一体、何が分かるというのです」
「射撃陣地が数個でも見つかればよろしい。それらの位置から指揮所を割り出してみせましょう」
エキセドルはきっぱりと言い切った。
ここにきてやっと地球人たちは、記録参謀の言わんとしている事を理解し、一様に面食らった。彼は敵の指揮官と同じ思考をとることによって、敵陣の詳細な配置をいわば逆算しようと言うのだ。
「そんな勘や憶測で…」
高官の一人は、言いかけてそこで口をつぐんだ。これは地球人の常識で反論できる性質のものではない。彼らの想像の及ばない、全く次元の違うものなのだということに気付いたのだ。
それでも別の高官が、遠慮がちに口を開いた。
「敵がその輸送部隊を襲うという公算はないぞ」
「もちろん、襲っていただけるように仕向けるのですよ。が、もし万一思惑が外れたとしても、それはそれでよろしいではないですか。貴重な物資を無事運ぶためには、少々厳重な警戒をしいてもバチは当たりますまい」
もはや反駁を試みる者は誰もいなかった。
それまで一言も発せず、机の上で指を組んだまま、話を聞いていたグローバルが顔を上げた。
「諸君…エキセドル君以上にここにゼントラーディ軍に詳しい者はいまい。信じてお任せしようじゃないかね…」
そんな折であった。あのアトラス・シティで起きた医師誘拐事件の詳細な報告書がドールの元へと届いた。彼女も事件そのものは知っていたが、詳しい経緯についてはこれまで知る機会がなかった。
「こういった物を、催促しないと出してこないのは地球人の悪い癖ですな。該当地区での事件は、どんなに些細でも詳細を知らせてくれと言ってあるのですが…」
こぼすエキセドルから書類を受け取り、ページを繰って読みだしたドールの顔に、間もなく険しい表情が浮かんできた。
「これは…"彼ら"の仕業でしょうか…」
「おそらく。彼らの現在の活動地域からして、間違いないでしょう」
エキセドルは答え、ドールの様子を確認するかのようにちらりと横目を使った。
「危険を冒してまで、医者をさらい、治療させようとした人物。なかなか興味深いですな」
「……」
そのエキセドルの言葉を、ドールは聞いていなかった。報告書に記された、ゼントラーディ人が語ったという「患者」の様子。墜落時に頭部を打ち、十日以上意識不明であった人物…
書類を持つ手が震えた。
「間違いない…ランの事です…」
「……」
ドールは、あの黒い雨が降る日のことを思い出した。あの日、彼女の部下は突如、昏睡状態から目を覚まし、豪雨の中に飛び出して、それきり姿を消してしまった。
そしておそらくは、あの激しい濁流に飲み込まれてしまったのだ。
付き添っていた兵士は泣きながら、ランがまるで理性を無くしたかのように怯え暴れ、周りの者のことすら分からない様子であったと語った。
あの時、自分が側にいればこんな事態にはならなかったはずだ。ドールは今でもそのことを悔いている。
「そうですか…やはり…」
これまでの検証から、"狼旅団"が擁しているのは、第109分岐艦隊の記録参謀であることはほぼ確実であると判断していたが、これはそれをさらに裏付けるものであった。
「しかし、記憶が…そのような事、あり得るものでしょうか…」
ドールには、あの超人的な記憶力を持つ記録参謀が記憶をなくすなど、とても信じられない。
「我々とて、生身の人間です…しかし、記録参謀の持つ戦闘メモリーが失われるとは考えにくい…となると、後天的な記憶に何か、ということもありますな…」
「……」
「いずれにせよ…保護しさえすれば、詳しい症状も分かりましょうし、治療の手だてもあるでしょう…」
エキセドルとしては、それ以上に言いようがなかった。
ドールの手から書類を返してもらうと、彼は見るともなくページをめくりながら、以前から気になっていた事を口にした。
「それにしても…彼らの…目的が知りたいものですな」
「目的?」
「他のゼントラーディ残存勢力は、地球の街を戦力と捉え、少しでも打撃を与えようと全力で攻撃してくる傾向がありました。それに対し、彼らは最小限の戦力をもって何かを奪うなりすると、すぐに姿をくらまし、移動する…極力、力を温存して息を潜ませているのは、その先に何か目的があるからだとは思えませんか」
「もしや…いまだ基幹艦隊からの救援が来ると信じているのでは…」
「いや、それはあり得ないでしょう。あれだけの情報力を持っているのですから」
「では……」
ドールには全く想像がつかなかった。
「ま、その点を推察するにはあまりにデータ不足ですな。あるいはそれが分かれば、交渉の糸口が掴めるやもと思ったのですが…」
「いえ、もうその必要はないでしょう。エキセドル参謀…」
「ほう」
エキセドルがいささか意外に思うほどに、ドールは明言した。
「この作戦で目標を確保すれば、彼らはもはや力を充分に発揮できません。士気も大いに下がるはずです。交渉するのでしたら、それからにしてください…」
ドールはエキセドルに一礼すると、その場を去った。
エキセドルはしばし、大きな目をさらに大きく見開き、遠ざかるドールを眺めた後、小さな微笑を浮かべて一人ごちた。
「頼もしいことです…ま、ブリタイ閣下ほどではありませんが…」
その日、ドールは珍しく真っ直ぐに自宅に帰ることなく、ぶらぶらと当てもなく街をさまよい歩いた。
彼女の頭からは、あの報告書の内容がこびりついて離れない。
――記憶が――
やはり、あの時の頭の怪我はそれほどの深刻なダメージだったのだ。
だとしたら…
――まさか、私のことも――
不吉な考えを振り払うように、ドールは頭を振った。
その時、ふと優しい音が耳に流れ込み、彼女の足を止めた。
「歌…」
気が付くと、いつの間にか小さな公園にたどりついていた。よく手入れされた花壇を飾る春の花々が、夕暮れの光を浴びている。
歌は公園に設置された街頭スピーカーから流れていた。いつも街には音楽が流れている。最初は、ただの驚きであった。次は、物珍しさだった。最近になってやっと、歌の持つメッセージというものに心を向けることができるようになってきた気がする。
どこか寂しげでありながら、颯爽としたメロディ。水のように澄んだ調べ。奇しくもそれは、あのアゾニアの心を捉えた曲と同じものであった。
過ぎ去った日々よ、もう一度…
その一節はまるで、過去の世界に置き忘れたものを必死に探し求める、自身の心を映し出しているかのようで、ドールはしばらくその歌に聴き入っていた。
「いい曲でしょう。私も大好きなの」
振り向くと、そこには見知った女性の顔があった。面長のすんなりとした美人。長い金髪を束ね、薄手のニットにジーンズ、統合軍放出品の皮ジャンパーという活動的ないでたちである。
「ターニャさん…」
「はい、そのまま」
すかさず、タチアナは愛用のカメラを向け、シャッターを切った。パシャリという音。今では少なくなったアナログ式のカメラは日本製の一眼レフで、彼女が学生時代、苦労して買ったという自慢の品だ。
「初めて会った頃より、ずいぶん表情が出てきてるわ」
レンズにキャップをはめながら、タチアナは言った。
「以前はゼントラーディ人はすぐ見分けがついたの。目つきが鋭くて、表情が乏しくてね。でもこのごろはみんな、色んな顔をするようになってきた…」
続いてタチアナは自分の思いを語った。ゼントラーディ人皆が、人間らしさを取り戻してくれればいいと願っていること。そのために自分も何かできないかと思っていること。いかにも彼女らしい、純粋な願いであった。
「今、デスクに根回し中なんだけど…取材したいテーマがあるの。なるべく多くのゼントラーディ人に話を聞いてみたいのよ。彼らにとって、本当に必要なものは何か。私達地球人はまだまだあなたたちについて、表面的な理解しかしてないと思うの。本当はもっと知るべきことがあると思うのよ。そうすれば…きっと両者はもっと仲良くなれるわ」
タチアナは、自分がそのようにゼントラーディ人に興味を持つきっかけになったのも、あなたのおかげだと言って微笑んだ。
「それで、取材したことをまとめて、いずれは本を出版したいわね。昔からの夢なの」
「夢…?」
「そう、将来やりたいことや、こうなりたいと思う自分の姿ね」
「夢…」
ゼントラーディ人にとって、夢とは無縁のものであった。明日、生きているかどうかは分からない、その日その日を命令で動くことしかできない彼らには、先のことを思い描くことなど、思いもよらない事であった。
いや、ドールの知る限りたった一人、夢を語った人物がいる。
長い銀髪の、美しい人であった。金色の鋭い眼光を向けていた先は、余人には理解し難い、あまりに遠くであった。
「私は、知りたいのだ…」
そう言ったその人の顔は、今のタチアナと同じように、まだ見ぬ未来へのあこがれに満ちていた。ドールはその心を理解はできなかったが、その輝く瞳と言葉は何か尊いもののように思え、心の奥底に大切にしまわれた。
だからこそ、彼女は生きる選択をしたのだ。でなければ、自分は今ここにはいないだろう。あの黒い雨の降る日、生き残った部下たちと共に死を選んでいたはずだ。
――そうだ。あの方の代わりに、私はこの世界を見ようと、決意したのだったな…
あの時の決意は間違っていなかったのだ。今、生あるおかげで、失ったと思っていた者に、再会するチャンスを得ることができたのだから…
「夢とは…きっと、人に力を与えてくれるものなのですね…」
ドールのつぶやきに、タチアナは春の風のような笑顔をひらめかせた。
「ええ、きっとそうね。あなたも、何か夢を持った方がいいわ」
「……」
ドールはしばらくの間考え込んでいたが、少し困惑したような、申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「今は、重要な任務があって、他のことは考えられないのです…」
「そうなの。忙しいのね」
民間人であるタチアナは当然、ドールの新しい任務など知るよしもない。
「でも、それが達成できたら、私も、その先の未来を考えることができるような気がします。いえ、きっと…」
彼女にとって、未来を思い描くというのはまだ難しいことであった。
が、苦楽を共にしてきた唯一の友が側にいれば、何かが見つけられるような気がするのだ。いつも二人で助け合ってきた。二人でなら、慣れぬこの世界でもきっとうまくやっていけるはずだ。
彼女を置き去りにして、自分だけ前へ進むことは許されない。それがドールの固い決意であった。
「任務、がんばってね。また暇になったら遊びにいらっしゃいな。今度は簡単なパスタ料理の作り方を教えてあげるわ」
タチアナはカメラのケースを担ぎなおした。
「じゃあ、この辺で失礼するわ。そろそろアリョーシャも帰ってくる頃よね」
手を振りながら、夕暮れの景色の中に軽やかな足取りで去ってくタチアナを、ドールはいつまでも見送っていた。
* * *
ついにドールが旅立つ日がやってきた。
この作戦は極秘のため、団結式も行われない、ひっそりとした門出である。
マクロス・シティからは三個飛行隊が、ニュー・バルナ・シティへと向けて飛び立った。表向きはパトロール隊の強化という名目である。
その中に、アラン・ベルナール率いるパンサー隊があった。一方、僚友のアレクセイはこの特殊部隊に加わることなく、通常の任務のままである。
「こういう場合には家族持ちは後回しにするもんだと誰かが…多分マクレーン隊長だと思うが、アドバイスしたらしいんだ」
アランは説明した。
「……」
部隊の選出とは気重かつデリケートな仕事である。ゼントラーディ軍にいた頃には考える必要のないことも配慮しなければならない。家族の意味を知らない彼女が、ゼントラーディ人であるがゆえの反感を買わないよう、マクレーンは気を遣ったのだろう。
一方、教導隊の人々はドールのために内輪の壮行会を開き、口々に激励の言葉をかけた。
「体に気をつけてな。がんばってきなさい」
マクレーンは、なぜドールが今回の指揮官に志願したのかは知らない。
故に、今回の作戦にかける彼女の意気込み、そして一見静かなその表情からにじみ出る激しい闘志を感じ、漠然とした不安を覚えずにはいられなかった。
やはりゼントラーディ人の精神は、戦いに飢え、求めてやまないものなのか。
マクロス・シティを離れてゆく輸送機の後姿が、まるで解き放たれた野生の鷲のように、彼には感じられるのであった。
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