TVアニメ「超時空要塞マクロス」の二次創作を公開しています。
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§20 追撃
 黒く乾いた血のこびりついた、ゼントラーディのIDタグ。アランの持ち帰ることのできた戦果はそれだけであった。
 しかしこれは、統合軍の追う人物が間違いなくドールの元部下、ラン・アルスールであるということの、動かぬ証拠であった。

 ディスク・センサーの指揮官用キャビン。モニターの画像越しにドールは一人、それを眺めていた。
 アランをはじめ、作戦に参加したバルキリー隊は補給を受けるために、一番近いアレクサンドリア・シティへと帰還したが、ディスク・センサーは途中、空中給油を受け、その後も砂漠の上空を飛び続けている。今は交代した別の部隊が護衛に就いていた。
 今は手にとって直接見ることのできないそれ。そしてもう一つ、決定的な映像があった。
 バルキリーのカメラが捉えた記録映像である。鮮明とはいえない画像だが、ドールにはそこに映っているのが誰か、見まごうはずもなかった。
「痩せたな…」
 もともと血色のいい方ではなかった。が、映像の中の部下は、ドールの記憶の中の姿よりもずっと痩せて、というより、やつれているように見えた。砂まみれの大きすぎる戦闘服が、余計そう見せていたのかも知れない。
 恐怖におびえたその顔が、心に痛かった。
 ドールは身動き一つせず、モニターを見つめていた。いや、目だけは画面を向いていたが、心はどこか遠くを彷徨っていた。映像はとっくに終わり、画面はグレーの光だけを放っている。
 死んだと思いあきらめていた…
 たった一人の人間の生死が、これほどまでに心を揺さぶることに、ドールは戸惑いを感じずにはいられなかった。命とは、とるに足らないものであったはずなのに。他人の命も自分の命も…
 彫像のように動かなかった彼女にわずかな変化が表れた。唇がぎこちなく動き、壊れかけた機械のように、かすれた声を押し出した。もし、ここに誰かがいても、聞こえなかったかも知れない。
「すまない。本当にすまない…お前と、もう一度話をしたかった…」
 ふいにノックの音がして、ドールは我に返った。
「どうぞ」
 どのぐらいの時間が経っていたのか。ドールは慌ててモニターを消した。
 キャビンの扉が開いて、記録参謀が入ってきた。彼女の本来の部下ではない、赤い髪の小柄な男…
「失礼します」
 エキセドルはカップの乗った小さなトレイを携えていた。ドールには彼の視線がわずかに動き、室内を見回したように見え、軽い困惑の表情を浮かべた。心の内を見透かされてしまったように思えたからだ。
「温かいココアはいかがですかな?」
 ごく普通の態度で、エキセドルは折りたたみ式のサイドテーブルを引き出すと、カップを置いた。
「アレクサンドリア・シティから連絡が入りました。ヘリボン部隊の出撃準備が整ったそうです」
「索敵の方はどうです」
「残留熱量は途中で途切れましたが、大体の方角は分かりました。地形を分析中です。間もなく判明いたします」
「そうですか…」
 彼のことだ。確実に、目標の逃げ込んだ先を突き止めるであろう。
 考え込んでいるかに見えるドールの傍らで、エキセドルは暫し、黙って立っていた。
「…冷めないうちにお飲みください。うんと甘くしておきましたから…」
 その言葉を残すと、彼は静かに部屋を退出した。

* * *

 その夜、ランは全く寝付けなかった。時刻はすでに真夜中を過ぎていたが、疲れきった体が却って神経を昂ぶらせ、筋肉の緊張がいつまで経ってもほぐれない。
 そして、棘のようにいつまでも耳に残る、あの敵兵の言葉…
 何度も寝返りを打ち、やっと訪れた睡魔に身を預けた頃、緊張に包まれたアゾニアの声が、彼女を現実の世界に引き戻した。
「ラン、起きろ、敵だ」
「えっ」
 身を起こすと、暗闇の中、アゾニアの傷の位置だけが何となく見えた。
「第二警戒ラインを抜けてる。早く仕度しろ」
「…!」
「いいか、二号通信車に乗れ。フィムナ、頼むぞ」
 アゾニアはそれだけ言うと、姿を消した。
 ランはすぐにベッドから飛び出し、暗がりの中、作業服を身に纏うと、多くもない荷物をまとめだした。
「何故この場所が分かったんでしょう…」
 フィムナが彼女の疑問を代弁するかのようにつぶやいた。
 そこへ三名ほどの兵士がなだれ込んできて、あっという間に簡易ベッドを運び去り、天幕を取り払っていく。たちまち、彼女らの寝ていたその場所は、ただの乾いた地面に戻った。
 衣嚢を担いで飛び出すと、野営地は撤収と戦闘準備に走り回る兵士達の、殺気立った息遣いで溢れかえっていた。わずかな星明かりのみが、大勢の人間が動き回るのを照らしている。
「参謀、こっちへ」
 フィムナに促され、破壊された指揮車の代わりの通信車へと向かう。そこにはすでにアゾニアと主な部隊の長が集まり、地面に描いた地図を囲んでしゃがんでいた。
「敵の規模は」
「バルキリーがおよそ40機、あとは地上部隊らしいがよく分からん。第一警戒ラインの外側、1.5ミールで降下、現在散開して接近中」
「降下した…奇襲をかける気がないということか…どういうつもりだ…」
 アゾニアは眉をひそめて唇を触ると、すぐ判断を下した。
「脱出パターン・Bだ。なるべく引きつける」
「おう」
 部下たちは一斉にうなづく。
 アゾニアはケティオルを見た。
「ケティ、いいか」
「おう、まかしとけ」
 ケティオルは身を翻すと、野営地の奥、暗闇の中に駆けていった。
「隊長!敵は第一警戒ラインまで来ました!」
「よし!撤収はもういい。総員戦闘態勢だ!」
 アゾニアの叫びと同時に、それまで走り回っていた兵士達は一斉にそれぞれの持ち場に向かって、吸い込まれるように散っていく。
「さあ、中へ」
 アゾニアはランの手を引っ張り、通信車の後ろのハッチから中へと押し込んだ。
 その瞬間、青白く鋭い光が辺りを照らし、アゾニアは不愉快そうに目を細めた。それと同時に、明瞭なゼントラーディ語が光の方向から聞こえてきた。
「ゼントラーディ将兵に告ぐ。貴官らに逃げ場はない。すみやかに武装を解除されたし!」
「言ってくれるな…」
 指揮官用シートについたアゾニアは、尻の位置を微妙にずらしながら毒づいた。
「我々は無用の戦闘を望まない。貴官らが武器を捨て、話し合いに応じれば、当方も武力を行使せず、貴官らを礼を以て遇するを約束する!」
 本拠地を突き止めておきながら、一挙に攻撃をかけることをせず話し合いなどと言う。アゾニアには地球人のこのやり方が理解できない。むしろ、ただ不遜に感じられるのみだ。
「繰り返す。話し合いに応ぜよ。五分以内に返答なき場合は遺憾ながら攻撃する!」
 通信機からは各部隊からの報告が次々と入る。
「装甲歩兵隊、準備完了!」
「補給隊、準備完了!」
「通信隊、準備完了!」
「まだ撃つなよ!」
 血の気の多い部下たちに釘をさすと、アゾニアは低く唸った。
「奴ら…何でここが分かったんだ…」
 彼らはあの後、分散して砂漠に身を隠し、日没を待って移動した。機械類の発する熱は、フィルターによって遮断されているはずだ。
「アゾニア…」
 傍らでランが言葉を発した。前方を見据えたまま、厳しい表情を眉間に浮かべている。
「多分、アゾニアの思考パターンをトレースされたんだ…」
「何…?」
 アゾニアには、彼女が何を言っているのか理解できなかった。
「この辺りの地形を徹底的に分析して、アゾニアが一番、ねぐらに選びそうな場所を割り出したんだよ」
「…?…そんな当てずっぽうみたいな事が出来るわけ…」
 言いかけたアゾニアを遮るように、ランはいつもの彼女からは想像もつかない、鋭い眼光を投げた。
「敵の中にも記録参謀がいる。これまでの戦いで、アゾニアの行動パターンを読まれちゃったんだよ」
「あたしはそんな単純じゃないっ!」
「だから!そういうのも含めて、分析されちゃってるの!アゾニアの頭がいいとか悪いとかは関係ないんだよ」
「……」
 明敏なアゾニアでさえ、記録参謀の理論はすぐ理解するには難解すぎた。が、敵の中にも記録参謀が存在するという事態の深刻さは、彼女にも分かる。
 地球人が、彼らにとっては敵であるはずのゼントラーディの人間を作戦に用いている。その事実には薄々気付いていたが、下級兵士クラスばかりではなく、作戦の中枢に関わる者までもが、地球人に手を貸しているとは…
 自らの手の内を読まれたという事よりも、その事の方がむしろ口惜しく、アゾニアは唇を噛んだ。
「脱出パターンを変えた方がいいのか?」
「……」
 ごく短い思考の後、ランはきっぱりと言った。
「大丈夫。いくら記録参謀でも行動のすべては見通せない」
 赤い瞳がギラギラとした闘争本能に満ちた光を放った。頼りなげに見る彼女にもまた、ゼントラーディの血が流れているという証であった。

「まあ、彼らが素直に言う事を聞くなどとは思っていませんがな。一応、形式は守りませんと」
 砂漠のはるか上空、一万メートルにおいて、エキセドルは中央スクリーンを見つめながら、いつもの飄々とした表情を浮かべた。
 スクリーンには、実際には夜の闇で見ることができない地形が詳細に映し出されている。
 昼間戦闘が行われた砂漠から500キロほど離れた、山岳地帯の入り口。いくつもの山裾が複雑な地形を作り、隠れ場所としてはうってつけであった。その中でも、今彼らが見下ろしているこの谷は、奥行きが長く、曲線的で航空機による攻撃がしにくい。
 そして一番の特徴は、この谷には反対側に抜ける「裏口」があることだった。
「戦闘が始まれば、彼らは防戦すると見せかけて、この谷の反対側へ逃げるはずです…」
 エキセドルは説明した。
 これまでに統合軍が発見した彼らの野営地跡でも、完全な袋小路になっているものは一つもなく、必ずどこかしらに脱出路があった。
 スクリーンの地図上に、敵の予想脱出進路を示す線が表れた。
 谷は山地を抜け、さらにその奥には別の丘陵地帯が広がっている。そこで分散して隠れられれば、見つけだすのは至難の業になる。
 エキセドルがパネルを操作すると、谷の出口付近に味方を示す青色でデストロイド部隊の符号が表れた。
「それをここで迎え撃ちます。彼らをこの谷から出しはしません」
 自信に満ちた表情で、エキセドルは宣言した。

 しかし、この作戦においては、もう記録参謀を無傷で捕らえることは期待できない。
 前回の作戦が失敗に終われば、その時点で作戦の目標は記録参謀の捕獲から、敵本拠への打撃攻撃へと切り替わる。それは、あらかじめ決められていた事であった。
 もちろんドールは、そのことを了承していた。承知する他ないのだ。
 幾度も統合軍に煮え湯を飲ませてきた神出鬼没の狼の群に対し、統合軍は歯がみをしながらも、これまで防戦という形しかとれなかった。
 今回は、極力穏便な解決を図りたいと願うエキセドル、ブリタイらの意向を最大限に汲んだが、一方で徹底的な排除を主張する地球人強硬派が存在したことも事実である。
 手の込んだ作戦を何度もする余裕はない。ここでその本拠を突き止めた上は、徹底的にその戦力を削いでおかねばならないのだ。でなければ、また街や一般市民が危険にさらされるだろう。
 であるからこそ、ドールは何としてでも捕獲作戦を成功するつもりであったのだ。が…
――すまない。私の力不足のせいで…
 ドールは心の中で、部下に詫びた。

 砂漠の夜の空に、黒く浮かび上る山の稜線。この稜線に挟まれた谷の奥に、ゼントラーディ軍が潜んでいる。これを包囲する統合軍からすれば、この山地は敵を守る砦であった。急峻で複雑な地形がファイターでの攻撃を困難にし、バルキリーの利点を生かせないよう押さえ込んでいる。
 ただ、同じくそれは敵にとっても、行動範囲と脱出経路を限定するという不利を生み出すものである。
 バルキリー隊の隊長は、モニター画面の隅に表示されている時計に目をやった。
「さあどうする…巨人共…ここで戦うか、それとも奥へ逃げるか…」
 前方の谷には何の変化もない。
 だが時間だけは確実に進んでいる。永遠に続くかとさえ思われるこの静けさは、その時、終わるのだ。
「時間だ!」
 その言葉が終わらぬうち、それまで沈黙を続けていた谷の奥がきらりと光り、瞬間、投光器の一つが破壊された。
 同時に、エネルギーと弾丸の嵐が一斉にバルキリー隊目掛けて殺到した。
「応戦せよ!」
 バルキリー隊は散開しつつ、谷の入り口へ向けて攻撃を開始する。
 ガンポッドから打ち出された弾丸が、暗い谷に向かって吸い込まれていく。
 この地形はゼントラーディ軍にとって、身を隠すには適していたが、外敵の排除という点では困難であった。間口が狭いために広く展開できず、却って集中攻撃を受けやすい。
「擲弾班、右の稜線を狙え!」
 バルキリー用に新開発された擲弾筒を構えた数機が、敵陣を挟む山の上方に狙いをつけ、撃ち放つ。
 衝撃と共に岩だらけの砂漠の斜面が崩れ、巨大な石が斜面の中ほどにいたヌージャデル・ガーに直撃した。ヌージャデル・ガーは斜面からころがり落ち、動かなくなる。
「敵の見える所に上がるな!一班二班、後退しろ」
 ソルダムの声に、前方に位置していたバトルスーツは、互いに援護しながら、少しずつ谷の奥へと下がっていく。
 ディスク・センサーの戦場監視システムは、この様子を逐一捉えていた。
「敵は後退を始めたようです!」
「デストロイド隊の配置状況はどうか」
「はいっ、現在、予定通り配置完了しております」
「よし…」
 ドールは静かな口調で、待機のバルキリー隊に攻撃命令を出した。
「ミサイル使用を許可する。ガウォークで上空からプレッシャーをかけ、谷の奥へと追い込め」

* * *

「ははーん、案の定だ」
 ケティオルは暗視双眼鏡を覗きながら、にやりと笑った。
 谷の反対側の出口に近い斜面。突き出た岩棚に彼と一人の部下はいた。
 彼らの視線は、谷を出た先の平地に向けられている。平地といっても、山々が織り成す地形の合間にたまたまできた、平らな場所である。
 双眼鏡の視界の中にうごめく影があった。あのデストロイドと呼ばれる兵器だ。
 山の稜線の向こう側から、巨体を吊るしたヘリが次々に現れる。デストロイドは、地上近くで切り離されると、重々しい音を立てて着地し、陣形を組むために動き出した。鉄の足音もヘリの轟音も、戦闘中の前線には聞こえないだろう。
「なるほどな。ああやって運ぶのか」
 デストロイド群は、谷の出口を包囲するように展開し、その機体に装備された数々の重火器を構えていた。もし、のこのことこちら側から脱出しようなどとすれば、たちまち集中砲火を浴びてしまうであろう。
「アゾニア、やはり後ろに居るぞ」
 ケティオルはむしろ嬉し気にアゾニアに報告した。
「よし、こちらもいつでもいいぞ。全部ブッ飛ばせ!」
「へへ、了解」
 ケティオルは通信を終えると、部下の方を振り返った。部下は手にした装置をしきりに操作していたが、間もなく顔を上げた。
「準備よし!」
 それを聞くとケティオルは歯をむきだして笑顔を作り、眼下の敵を見据えて手元のスイッチを押した。
「くらえ!」

 突如、闇夜に破裂音のようなものが響き、不気味な地鳴りが巻き起こった。
「…な、なんだ」
「地震か!?」
 剛胆で鳴らすデストロイドの搭乗員たちが、不安げな視線を狭いコックピットの計器盤に泳がせた。
「隊長、後ろの山が!」
 誰の発した言葉かは分からなかった。その瞬間、激しい衝撃が搭乗員たちの体を突き飛ばした。
 大量の岩と土が襲い掛かってきた。ケティオルが周到に張り巡らせておいた爆薬が、背後の山肌を一挙に吹き飛ばしたのだ。
「こちら第三中隊、や、山が崩れてきたぁっ」
 脱出などしようがなかった。
 猛烈なスピードで走り来た土砂は、デストロイドの群れを飲み込み、押し流した。強力なパワーも、厚い装甲も、岩石の雪崩には全く太刀打ちできなかった。強靱を誇る鉄のボディがひしゃげる音が響き、闇の中、星明かりに照らされた土埃が、うっすらと白く広がっていく。
「へへへっ、うまくいったぜ」
 暗い谷に立ち込める煙を双眼鏡で確認すると、ケティオルはインカムに手をやった。
「アゾニア!成功だ。敵はぺっしゃんこだぜ」
 彼は新たな野営地に移るたび、それぞれの地形に合わせ、この手の仕掛けを用意していた。
 もし使用されることがなければ、もちろん丁寧に回収して再利用する。この地味な作業が報われる時がやってきたというのは、ケティオルの自尊心を大いに満足させるものだった。
 彼は部下と共に斜面を駆け下り、隠してあったバトルスーツに乗り込むと、その場から姿を消した。

「ウルフハウンド!こちら特殊機甲大隊、罠だ!!発破をかけられました!第三中隊壊滅、第四中隊、第一第二小隊行動不能。他応答ありません!」
 通信機から、デストロイド隊からの悲鳴にも似た報告が上がる。
「……!」
 さしものエキセドルも顔色を変えた。
 ドールだけが微動だにせず、動揺する周囲を叱咤するように、重厚な声を発した。
「出てくるぞ!バルキリー隊、前方よりの敵に注意せよ」

 不気味な地響きは、5キロ離れた谷の反対側にも届いていた。
 激しい銃撃戦が続く中、その音と、そして眼前の敵にわずかに動揺が走ったのを、アゾニアが見逃すわけはなかった。
「今だっ!」
 その咆哮と共に、これまでじりじりと後退していたゼントラーディの軍団は、まさに"豹変"という文字のごとく、一斉に反撃の牙を剥いた。
 ビームが太い束となってバルキリー隊の中央に突き刺さり、たちまち三機が大破した。それと同時に飛び出したバトルスーツの群が、全速力で迫り来る。
「迎え撃て!」
 ガンポッドの攻撃に数機が打ち倒されたが、それを全くものともせず、敵の中心になだれ込むバトルスーツ隊。
 その猛烈な攻撃が、包囲網に穴を開けた。
 ポッドの群に挟まれた戦闘車両類が、その間隙目掛けて殺到し、次々と駆け抜ける。
「左右に展開して態勢を立て直せ。ベアー第一、第二小隊は中央のバトルスーツに応戦せよ。リンクス隊は前方より脱出する敵を攻撃。極力消耗を図れ。脱出したものは構うな」
 ドールの冷静な指示が飛ぶ。バルキリー隊は態勢を立て直し、中央突破を図るゼントラーディ軍を左右から攻撃した。
 しかし、怒濤の勢いで走り来る敵に、統合軍はなお押され気味であった。
 輸送用車両、支援車両などが猛スピードでポッド隊に続く。武装がほとんどないこれらの車両も、ゼントラーディ・サイズの巨大なものである。多少の銃撃にはへこたれなかった。
 輸送車の体当たりを受けたバルキリーが地面に叩きつけられた。
「周りに構うなっ!走り抜けろ!」
 アゾニアが叫ぶ。その隣で、ランはシートから放り出されまいと、必死にしがみついていた。
「信号弾、オレンジ三つ!」
 最後の車両が走り抜けると同時に、信号弾が空へ向かって打ち出された。本隊の危機を、遠く離れた位置にいる別働隊に知らせるものである。
 ゼントラーディの軍団は、地球人の包囲網を突破することに成功した。
 最後尾を守るバトルスーツが、手榴弾を後ろに向かって次々と投げつける。手榴弾は地に落ちる手前ですさまじい閃光を発した。
「うわっ」
 光量調節機能が寸時に働いたが、それもわずかに及ばず、バルキリーのモニターは焼き付けを起こし、搭乗員は強烈な光の洗礼を受けた。
 それと同時に、センサー類も一斉に悲鳴を上げた。それはバルキリー隊ばかりでなく、上空のディスク・センサーも同様であった。
 探査装置ばかりでなく、飛行に必要な計器類までも激しく狂い出したのを見て、エキセドルは叫んだ。
「電磁パルス弾です。距離をとってください」
 地上のバルキリー隊に指示を出したくとも、あらゆる通信手段が使えない状況である。追撃はあきらめざるを得なかった。
「…通信の回復を待って、地上攻撃部隊へ上空待機位置まで移動するよう命じよ」
 ドールはそう言い、わずかに上を仰ぎ見ると、目を閉じ、小さく息を吐いた。
 その顔にかすかに疲労の色が滲み出ているのに、エキセドルは気が付いた。
 おそらくゼントラーディ軍にいたころであれば、このような疲労は感じなかったであろうに、と彼は思った。
コメント
この記事へのコメント
う~ん、シリアス……!
闇の中にアゾニアの傷が浮かぶシーン、血が凍る程にクールですね!カッコいい!
わたしの例のアレはといいますと、現在スニーカー大賞に応募する為のオリジナル作品と並行してチョビチョビ進行中です。まだ第一話ですが、完成をお楽しみに!
2008/12/07(日) 05:17:45 | URL | 竹村しずき #N6kp4qTg[ 編集]
●竹村しずきさん
ありがとうございます!
戦いはまだ続きます。ご期待くださいませ(^ ^)
スニーカー文庫ですか!
すごいですね。ぜひがんばってください。楽しみにしております。
2008/12/08(月) 00:47:53 | URL | 作者。 #f4U/6FpI[ 編集]
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