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TVアニメ「超時空要塞マクロス」の二次創作を公開しています。
§28 断ち切れぬもの
 ニューシアトル・シティの空に突如、不気味な轟音が響いた。
 住宅の窓ガラスがびりびりと震え、家によってはテーブルからカップが落ちるほどの振動が起こった。
「何があったの!?」
 窓から顔を出した住民たちは、その光景に目を疑った。街の中心に鎮座する巨大艦から、轟々と黒煙が噴き出している。
 非常サイレンが灰色の空を覆い、何機ものヘリコプターが艦の頭上に集まり出す様子を見て、人々はゼントラーディ軍の攻撃におびえたマクロス内での日々を思い出し、不安げに顔を見合わせるのだった。

「機関区域及びF4デッキ格納庫で爆発発生。少なくとも五か所で火災が発生しています!」
 非常警報が鳴り響くブリッジに、兵士たちの緊迫した声が飛び交う。
 司令室の中央に巌のように立つ隻眼の指揮官は、腕を組み、被害状況を知らせるスクリーンを厳しい表情で見据えていた。
「反応エンジンは?」
「エンジン本体は無事ですが、隣接区画の温度が急激に上昇しています」
 オペレーションフロアで対処にあたるこの艦の艦長、オルバス・ゴランがすかさず野太い声を張り上げる。
「F2からF5デッキ、乗員退避!封鎖して強制排気だ!」
 オルバスは続いて2、3の指示を素早く出すと、頭上の司令室を仰ぎ見た。
「閣下、これは…」
 事故ではない。鋭い眼光が語るその言葉をブリタイは読み取り、厳かに頷いた。
――動き出しおったか…

「緊急事態!機関区画を封鎖する。該当区画の乗員は速やかに退避せよ。繰り返す…」
 クルーたちは直ちに避難を開始した。巨人兵士たちの中には、怪我をした地球人兵士を手で運ぶ者もいる。この艦の中では、自然とそういった協力関係ができあがっていた。
 区画の責任者が全員の避難を確認し、非常シャッターを閉じてゆく。ベテラン揃いの艦だけに、その動きはよどみなく、速やかである。

「おい!もう誰もいねぇか!」
 燃えさかる格納庫に足を踏み入れ、カムジンは叫んだ。焼けた空気が押し寄せ、思わず顔を片手でかばう。
 猛火は居並ぶ戦闘ポッドを取り囲み、彼の愛機であるグラージをも包み込もうとしていた。
「こん畜生…」
 カムジンは歯がみした。彼にとっては愛機より、不意打ちを喰らったという事実が許しがたいことであった。
 すぐ先の床に、地球人が一人倒れているのが見える。
「おい!」
 カムジンはすぐさま駆け寄り、その地球人を両手で拾い上げた。が、その人物がすでに事切れていることは手に乗せた瞬間に分かった。おそらく有毒ガスにやられたのだろう。ゼントラーディ人には気分が悪くなる程度の量であっても、地球人にとっては致死量になることもある。
 彼の知った顔だった。よくこの格納庫で、自分に向かって声援を送っていた女の一人だ。
 憮然とした表情で、彼は物言わぬ女に文句を言った。
「…馬鹿野郎…だから嫌いなんだよ。マイクロンなんて…弱っちくてよ…」

* * *

 当然のことながら、この大事故のニュースは世界中を駆け巡った。
 画面に映された、黒煙をあげる巨艦を見たアグルは、厳しい表情で腕を組んだ。
「ついにきたか…」
 もちろん彼らは、これが単なる事故だなどとは思っていない。彼らこそこの事件の仕掛け人に他ならなかった。
 ブリタイ艦の修理現場には以前から、軍団のメンバーが入り込んでいた。そこで技術を盗み取ると同時に、部品なども拝借していたのである。それらのいずれかが発覚した場合の、これは予定の行動であった。
 彼らにとって最も脅威なのはブリタイ艦であった。もしこの艦の修復が完了し、先に宇宙に上がれば、アルタミラは狙い撃ちされる。
 できれば艦そのものを破壊したかったところであるが、さすがにあの巨大艦を破壊するというのは無理がある。が、映像だけではよく分からないが、艦のダメージは軽微ではない様子だ。スパイ達は最大限、うまくやったようだ。
「どう思う?」
 アグルは後ろにいる記録参謀を振り返った。
「多分、これで一、二ヶ月はかせげたと思う。でも…」
 部品をくすねていたことがバレたということは、自分達の最終目標が敵に知れたと見ていいだろう。
「多分、大捜索が始まる…」
「そうだな…」
 アグルはいかつい顎をなでた。
「見つかる前に飛べるようになるか…」
 時間との競争が始まったのだ。アルタミラが飛べるようになるのが先か、その前に見つかってしまうか。もし発見されれば、動けない巨大艦など単なる的である。
「ど、どうしました…?」
 突然、誰かが発した声に、一同の目はアグルの後方でうずくまっている記録参謀に集まった。
「……」
 驚きと困惑の表情に取り囲まれたランは少しばつが悪そうに、手の甲で額の冷や汗を拭きながら静かに立ち上がった。
 アルタミラに訪れてから、正確には砂漠で意識を失ってから、あの頭痛に見舞われることが確実に多くなっていた。
 この痛みを恐れるが故、ランは自らの記憶の失われた部分について、これまで無理に思い出そうとするのを避けていた。が、何をしなくても激しい痛みがしばしば訪れるようになったことは、彼女の心に暗い影を落としていた。
「大丈夫…」
 皆の足手まといとなるのが怖ろしかった。ゼントラーディ人の世界では、任務を果たせない者はいなくていいのである。とにかく何かしなければという焦りが、彼女を追い立てていた。

 その晩、ランは艦の外にいた。
 極北に近い大地は凍りつき、足を踏み出すたびにしゃりしゃりと音を立てた。空気は冷たいが、誰にも邪魔されず考え事をするにはいい場所だ。
 空はよく晴れていて、満天を埋め尽くす星は、今にも音が鳴り出しそうなほどにきらきらと震えている。
 その空を眺める赤い瞳は悲しげであった。
「違う…」
 それは見慣れた宇宙空間での星々とはあまりに違っていて、そのまま彼女と宇宙との距離を象徴しているようであった。
「ドール司令…酷い目に遭わされてないといいけど…」
 あの戦闘で地球の都市に壊滅的ダメージを与えたことによって、自分たちは勝利した。ということは、敵を指揮していたドールは責任を問われるに違いない。
「……」
 冷たい風に晒されながら、まるで自身が凍り付いてしまったかのように身動き一つせず、ランは何かを考えていた。そして、長い時間の後、一つの結論に達した。
「でも…ドール司令は…やっぱり裏切り者なんかじゃない…」
――司令は、私がいることを承知で、全力で戦いを挑んできた――
 相手が何者であっても、戦いにあたっては容赦しない。それがゼントラーディ人の誇りだ。
 常に敵の行動を読んで回り込み、消耗させる戦法…最も得意とする戦い方で挑んできたドールが、彼女の知るドール・マロークスのままであることは間違いない。
 だが何故、そのドールが地球人に力を貸しているのかは、どうしても分からなかった。
「地球人は、敵だ…」
 ゼントラーディ人の世界観には敵か味方かしかない。味方でないから敵なのだ。
 次に思い出されたのは、あの砂漠で出会った女だった。
 必死に何かを伝えようとしていたあの瞳は、真っ直ぐだった。
 そして、アゾニアが気に入っていた、あの「歌」…
 テレビの中で笑いあう男女…
「……」
 この星は何もかも難しすぎる…アゾニアの言葉が心に響く。
 全くアゾニアの言う通りだ。この星から一刻も早く離れないと、どうにかなってしまいそうだ。
 が、それの意味するもう一つの事も、ランはよく分かっていた…
「でも…そうすれば…二度と会えない…」

* * *

 数日後、ドール・マロークスは急な呼び出しを受け、大会議室へと入った。
 大会議室は四階吹き抜けの大きなホールで、円形の部屋の壁に沿って巨人用の席が、それに囲まれるように、張り出した二階フロアにマイクロン用の席があった。入室した彼女を待っていたのは、マイクロン用の席にいるエキセドルと、巨人用の席に掛けるブリタイである。
 部屋は薄暗く、空気は金属のようにひんやりとして重たかった。が、つい先ほどまでここに大勢の人間がいたであろうことを彼女の敏感な五感は察知した。きっと今回の事件に関して、重要な話が行われていたのだろう。
 ドールが端の席に着席すると、まずエキセドルが口を開いた。
「…以前、私は申しましたな。彼らの真の目的が知りたいものだと…私も甘かった。まさか彼らが、ここまでのことを考えているとは思いもよりませんでした」
 「彼ら」が誰を指すかは言うまでもない。エキセドルは眉間に深く皺を寄せ、心底恐れ入ったという様子で言った。
「彼らは、自力で宇宙へ戻ろうとしているのです。この星を脱出し、どこか別の基幹艦隊に合流しようというのでしょう」
「……」
 ドールは驚きを無言という形で表した。
「ノプティ・バガニスから盗難されていた部品は、替えのきかないゼントラーディ艦独自のものばかりです。しかも、先の戦闘で回収された彼らの輸送ポッドからも、一見、脈絡のないガラクタに混じって、艦船の修理に流用できる部材が多数発見された。それに加えて今回の事件…現場から、ゼントラーディ人の作業員が数名、姿を消しています…」
 ブリタイが話を継いだ。
「我が艦が宇宙に出れば、彼らにとってこれ以上の脅威はない。その妨害だろう」
「彼らが…そんなことを…」
 それは単なる驚き以上のものであった。
 自力で艦船を修理して宇宙に帰る。そのようなことは彼女は到底思いつかない。いや、ブリタイやエキセドルでさえ思い至らなかったのだ。
 やはり彼らは底知れぬ力を持っている。ドールは最近、特にそう感じていた。それが元からのものだったのか、地球人に影響を受けて発現したのかは分からないが、ゼントラーディ人がこれまで持ち得なかった何かであることには間違いない。
 ブリタイは一呼吸おくと、厳しい表情で宣言した。
「ともかく、全軍をあげての捜索となろう。そこで彼らの拠点が判明すれば、全面攻撃をかけることになる」
 わざわざこのことを告げたのは、彼らの精一杯の配慮であった。
 ドールは十分、そのことを承知していた。ここに呼び出された時から、話の内容は察しがついていた。彼女も生まれながらの軍人である。これ以上、自分の私的な感情を持ち出す気はない。
 だが、彼女はある考えを持っていた。それは部下のためではなく、全てのゼントラーディ人のため、これまで漠然と考えていた事であった。今が、それを言うべき時に違いない。そう考えたドールは、静かに、だがはっきりとした口調で言った。
「あの…彼らを…そのまま脱出させてやる訳にはいかないのでしょうか」
「…?」

「彼らの最終目的がこの星からの脱出だとしたら、それを果たせばもう、地球に関わるようなことはないでしょう」
「…気持ちは分かる…だが、そういう訳にはいかんのだ」
 諭すようにブリタイは言い、エキセドルが話を続けた。
「もし彼らがどこぞの友軍と接触すれば、この星の存在が知られることになります。ボドル・ザー閣下はこの星を危険と判断し、消去対象とした。同じことが起こりえないと、言い切れますか?」
「ですが、ボドル基幹艦隊が崩壊した際、生き延びた艦隊はもう別の基幹艦隊と合流しているはず。それでも今まで、この星への干渉はなかったではないですか」
「それは、幸運な奇跡と言っていい。だが彼らは、初めて聞いた『歌』に度肝を抜かれて逃げ帰った者たちとは違う。地球の戦力についても、『文化』の正体も知っている。たとえ彼らにその意思がなくとも、地球侵攻に利用されるだろう」
 ブリタイは断言した。彼とて、あの残存勢力を憎むべき相手とは思っていない。むしろその不屈の闘志と智恵には敬意さえ持っていた。
 が、地球は万に一つの奇跡により生き延びることができたのだ。このまだ脆弱な新生地球を守るため、わずかな危機の芽となりうるものも、宇宙に解き放つ訳にはいかないのだ。
 これに対しドールは首を横に振り、身を乗り出して語気に力を込めた。
「私は思うのです。彼らは…我らゼントラーディ人の、希望の光となりえるかも知れません!」
 ブリタイもエキセドルも、この意外な言葉に軽く眉を動かした。
「彼らはこの短期間の間に、地球人に与えられたのではなく、自分たちの力で自らを変えていきました。男女が協力し、技術を学び…50万周期もの間、何も変わることのなかった我々の中にも、そのような者がいたのです。プロトカルチャーによって作られた戦争のための…」
 彼女はそこで躊躇したように言葉を切り、そして続けた。
「…人形ではなく、自らの力で運命を切り開いていける人間に、彼らはなりつつある。その新しい芽を、むざむざ摘み取ろうというのですか」
「……」
 ブリタイは、ひどく苦渋に満ちた、悲しげな表情で言った。
「なればこそだ…中佐。貴官にも分かるだろう…そんな彼らを、一体どこの友軍が受け入れるというのだね…」
「……」
 薄暗い絶望のベールが、ドールの眼前に静かに降りた。
 仮に彼らが友軍と接触しても、プロトカルチャーの文化にさらされた者として即消去されるか、最悪は地球に関する情報を提供させられた後に消去されるか。ブリタイとエキセドルはそれを身をもって知っている。

 ドールは、肩を落としながら部屋を退出した。
 彼女はもちろん、ランは生きていると信じている。が、その戦友の運命は、確実に袋小路へと追い込まれつつあるのだ。
「お前は本当にそれでいいのか、それでもまだ宇宙へ戻る気なのか…お前を、お前達自身を見てみろ。お前達がどれほど変わってしまったかを…」
 が、彼女はそんな心をいつもの仮面に隠す。作業着に着替え、格納庫へ戻ると淡々と仕事を再開したドールを、教導隊飛行隊長のマクレーンは複雑な表情で見守っていた。
 マクレーンはドールの身の上を知る、数少ない人間である。そして彼は、あの特別作戦になぜ彼女が志願したのかも後に知った。
 頑なな仮面の下に、繊細な感性を隠していることを知るだけに、彼女を取り巻く今の状況には同情を禁じ得なかった。

 帰り際、ロッカーを開けたドールは、鞄の中の携帯電話にメールが入っているのに気付いた。数少ない友人の一人、タチアナからであった。
 メールは、申し訳ないが遅くなってもいいから寄ってくれないか、というものだった。
 ベリンスキー家の近くまで来ると、すでに玄関前にタチアナが落ち着かなげな様子で待っているのが見えた。何か真剣な話があるようだった。
「アリョーシャは言わない方がいいって言ったんだけど…でも、やっぱり私、知ってて黙ってるのはあなたに対してあまりにも申し訳ないわ」
「…?」
 彼女はドールを招き入れると、ダイニングルームへと直行させた。アレクセイは待機ということで留守であった。
 不思議そうな面もちでテーブルに着こうとして、ドールはすぐに窓枠に置かれていたそれに気がついた。
「……!」
 震える手が、真新しいフレームを取った。
 ヘルメットからわずかに覗く赤い髪、大きな目をあらぬ方向に向けた、少女のどこかうつろな表情は、ドールの心を突き刺した。
 驚くドールに、タチアナは写真を撮ったいきさつを説明した。
「生きて…いてくれた…」
 安堵の表情と共に、翡翠色の瞳が何ともいえない寂しげな色に満ちた。その横顔を見ながら、タチアナはドールとこの写真の少女の間に、血の繋がりはきっとあるのだろうと確信した。
 当然のことながら、ドールはその時のランの様子を知りたがった。もしかしたら部下は記憶を失っているかも知れない。何か変わった様子はなかったかとの問いに、タチアナは済まなさそうな顔をした。
「ごめんなさい。あまり話はできなかったの。驚かせちゃったみたいで…私を見たとたん、とにかく怯えてしまって…」
「怯えた?」
 ドールは怪訝な顔をした。
「パニックになりかけて、私も慌てちゃって、伝えたいことはたくさんあったんだけど、半分も言えなくて…」
「元気そうでしたか?」
「……」
 タチアナは躊躇した。具合が悪そうだったと、言っていいものかどうか。
 その代わり、覚えている限り、あの赤い髪の少女とのやりとりをドールに伝えた。
「そうですか…ありがとうございます」
 ドールはいつもの落ち着いた態度に戻り、タチアナの淹れた紅茶を一口飲むと、自らの、ゼントラーディ人としての半生を語った。
「若輩の私が、なんとかこれまで指揮官としてやってこれたのは、二人で力を合わせてきたからです。彼女は私の考えをよくくみ取り、いつも最善のアドバイスをしてくれました…」
「ずっと?」
「はい。聞いた話ですが、指揮官と記録参謀の人事は、コンピュータによって最良と判断された組み合わせでなされるという事です。地球の軍隊と違って、異動などはまずありません」
「そうなの…」
 確かにドールとあの少女は、現実には家族ではない。だが、アランの言う通り、かつて血縁だった者同士から作られたクローンだとすれば、愛情とか、相性の良さといったものを持っていたとしても不思議ではない。肉親だからといって仲が良いとは限らないが、少なくとも彼女らの場合は、強い絆で結ばれた家族だったのだろう。それは、今のドールの表情を見れば分かる。
 改めてタチアナは、ごく普通の人間を戦闘兵器に作り変えた、プロトカルチャー文明とやらの傲慢さに怒りを覚えた。
 ドールは丁寧に礼を言い、ベリンスキー家を退出した。その際、タチアナはランの写真と、ドールを撮った写真をフレームごと手渡した。
「またプリントするから、持ってって。いつか、再会できる事を祈ってるわ」
「あ…ありがとうございます」
「あと、これ」
 渡されたのは、一枚のCDであった。
「…?」
「あの時公園で流れてた曲よ。興味がありそうだったから…他のもいい曲だから聞いてみて」
 公園で写真を撮られた時、流れていた歌に聞き入っていたのをタチアナは覚えていたのだ。
「ありがとうね」
 不意に礼を言われて、ドールは不思議そうな顔をした。
「あなた、初めて自分の事話してくれたでしょう」
「……」
 さらに不思議そうな顔をするドールを、タチアナは優しい笑顔で押し出した。何も言わなくていいから――その目はそう語っているようだった。

 ドールの官舎はまるで殺風景であった。必要最小限の家具があるだけで、ここが若い女性の部屋であるなど、誰が見ても想像できないであろう。ベッドの上に置かれた、花の刺繍を施したクッションだけがかろうじて女性らしい色彩を放っていたが、これはタチアナがくれたものであった。
 ドールはベッドに腰掛けると、もらった写真を眺め、悲しげな顔をした。
 写真の中の部下は顔色が悪く、タチアナははっきりとは言わなかったが、健康状態があまり良くないことは一目で分かる。
「それにしても…」
 タチアナの話には少々、引っかかる点があった。
 なぜ、そんなに怯えたのだろう。部下は好奇心の強い性格だし、もう地球上で二年近くも過ごしているのだ。マイクロンを見て今更驚くというのはどうにも解せない。
 勘に過ぎないと言えばそれまでだが、これまで長い時を共に過ごしてきた相手だ。性格も考え方も、自分のそれと同じように分かっている。
「お前は本当に記憶を失っているのか、それとも…」
 医者をさらってまで治療させようとしたということは、周囲の者にもはっきりと分かる異常があるのは間違いない。
 だがそれは、本当に記憶喪失なのか?あの時の怪我のせいだけなのだろうか…
 ドールは懸命に記憶を遡った。
――お前はずっと意識を失っていた。そして、あの黒い豪雨の中、突然目を覚まし、パニックを起こして飛び出してしまった…
――そういえば…頭痛がすると言っていたな…そんな事はそれまでなかったのに…
――思えば、地球侵攻が決定した頃だ…
「……」
 じわじわと嫌な予感が頭をかすめ、不安に追い立てられるようにドールは腰を浮かせた。
「まさか…記憶を失ったのではなく、思い出している…?」
 まるで時が止まったように、震える瞳で虚空を睨みつけていたドールは、しばらくすると空気が抜けたように、再びベッドへとへたり込んでしまった。
 顔を覆った指の間から、後悔の息が吐き出された。
「なんということだ。今頃になって…」
コメント
この記事へのコメント
なんか悔しい
ゼンちゃんズが ハグれ組も統合組も どっちに転んでも ハグレ者扱いなんだよね この当時のマクロスは 作者様自身も苦しいだろうし
バボは 個人的には ゼンちゃんズにも明るい希望のある未来を手に入れて欲しいんです!(;_;)
ゼンちゃんズは 好き好んで戦闘をしてるんじゃ無いし、プロカル絶滅悪の権化軍団の奴隷の呪縛から早く解放されて欲しいです(T . T)
ゼンちゃんズが自由に成っては いけない 道理は無いんだもんヽ(;▽;)ノ
プロトカルチャーの アホ~ ゼンちゃんズに 愛と未来に希望を何としても手に入れてしい~
2010/12/05(日) 22:34:20 | URL | 敦賀屋バボ #grGQ8zlQ[ 編集]
カムジンのセリフに強い者の悲しみを感じます。そして、ランの記憶の謎もついに説き明かされるのでしょうか。続きを楽しみに待っています。
2010/12/06(月) 14:22:35 | URL | 蚕霖軽虎 #dZ0847IM[ 編集]
●敦賀屋バボさん
ありがとうございますー。
そうなんですよね。一度地球の文化に触れてしまったからには、もう元の純粋な(笑)ゼントラ人には戻れないんです。
かといって、地球社会に完全に溶け込めるかといえば、厳しいものがあるでしょう。
地球人から見れば、所詮ヨソモノでしかないんでしょうし...
私も、ゼントラ人(もちろん地球人も)のみんなには幸せになって欲しいです~。
がんばりまーす。

●蚕霖軽虎さん
ちょっと今回はシリアスなカムジン親分でした(笑)。
カムさんにもこういう一面があってもいいと思ってます。
ゆっくり展開なんで、ナゾはまだまだ残っていますが、どうぞ気長にお待ちくださいませ。
応援、ありがとうございます。
2010/12/08(水) 00:56:55 | URL | 作者。 #f4U/6FpI[ 編集]
■拍手コメントお礼
●豪渓仙人さん
いつも応援ありがとうございます^ ^
2010/12/09(木) 01:11:35 | URL | 作者。 #f4U/6FpI[ 編集]
クリスマスー~
たしか はぐゼンッズ陣営に小麦粉があって、シロップもあったから 何か作ってあげたい(T . T)
本陣や部隊からはぐれると 物資の補給は無いし、心細いし ましてや救助され無いし
渡る世間と環境 敵だらけやし
ブリ親父 早よ グロじぃ~と結託して 極秘裏に保護せーーーーい!(*`へ´*) メルシャン・アタックするじょー~⇒ Σ(・□・;)
2010/12/25(土) 11:21:08 | URL | 敦賀屋バボ #grGQ8zlQ[ 編集]
●敦賀屋バボさん
アニメとかの軍隊モノで補給の件がキチンと考慮されてるものって、ほとんどないんですよね。マクロスとか...(笑)
私は結構気になっちゃうので、なるべくシビアにしたいと思ってます。
でも彼らならきっと自力でホットケーキを焼けるぐらいになりますよ。きっと(多分)
よいお年を~
2010/12/26(日) 22:39:18 | URL | 作者。 #f4U/6FpI[ 編集]
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