TVアニメ「超時空要塞マクロス」の二次創作を公開しています。
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§2 記録参謀
 ソルダムの予言した通り、それからほどなくして、二人の拾いもののうち一人が目を覚ました。当初、男の兵士がいるのを見てひどく肝をつぶしていたその女性士官も、彼女なりに状況を把握したらしく、すぐに冷静さを取り戻した。
 第109分岐艦隊司令部、作戦部幕僚フィムナ・ファリーナ大佐、とその士官は名乗った。分岐艦隊の場合、作戦部の長は記録参謀が兼任する場合が多い。つまり二人は上官と部下の関係だったのだ。
「教えてくれ。なんであんな所に二人だけでいたんだ。宇宙(うえ)はどうなっちまってるんだ」
 アゾニアは士官の顔を見据えて問うた。作戦部の将校となれば、かなりのエリートである。確かに、彼女はここに集った面々とはひと味違ったノーブルな顔立ちをしていた。
 琥珀に近い濃い色の金髪は、所有者の意志に反してあちこちに飛びはねている。さすがにやつれてはいるものの、切れ長の目に収まった紫色の瞳が知的な光を放ち、自然かつ堂々とした態度であった。若く見えるが、階級から考えて実際の年齢はもっと上だろう。
 アゾニアの物言いに、将校は多少なりとも気を悪くした様子だったが、階級のあれこれをここで言いたてるほど愚かではなかった。ともかくも命を助けられたという事実と、そしてアゾニアの話や周囲の様子から、ここにいる人間たちが惑星上での生き方をよく心得ていることを読みとったのである。プライドが高そうな外見とは裏腹に、彼女、フィムナは現実主義者だった。
 が、端麗な顔はすぐ苦渋の表情に取って代わられた。質問に答える代わりに、膝を抱え、顔を伏せたその姿を見て、一同は不穏な空気を感じた。次いで彼女の口から出てきた、まさに誰も想像しえない、ありうべからざる現実は、アゾニアの横面をしたたかに打ちのめした。
「基幹艦隊は…壊滅した…」
「!!」
「バカな!」
「信じられん!」
 口々に騒ぐ部下たちをアゾニアは黙って手で制した。
「それは、確実なのか?」
 アゾニアは言葉を噛み殺すかのように、ゆっくりと念を押した。
「間違いない…母艦が沈んだ…我々は…この星に…取り残されたんだ…」
 フィムナは頭を抱えた。包帯を巻かれた指が痛々しかった。

 重苦しい雰囲気がその場を支配した。
「あの巨大な母艦が…」
 一番ショックを受けたのは他ならぬアゾニアであろう。このひと月、彼女は夜になると空ばかり見上げていた。分厚い雲に遮られていても、友軍の放つ何がしかの光でも見つけることができないかと、目をこらしていたのだ。
 必ず友軍は近くにいる。がんばって持ちこたえていれば迎えが来る。そう言って部下たちを励ましてきたし、そう信じていた。それを今更、すべての望みが断ち切られたと伝えなければならないのか。
 唇をかむアゾニアに、声をかけるともなくソルダムが言った。
「しばらくは…みんなには言わない方がいいな」
 ここにいる者はみな、アゾニアのここまでの苦労はよく分かっていた。彼女はどんなにつらい事があっても、悩んでいても、決して人前ではそのような素振りすら見せない。ただ一人、死んだフェスキアを除いて。今、彼女に慰めの言葉をかけることができる人間は、ここにはいないのだ。
 部下たちは、一人、また一人と部屋を出た。最後に残ったソルダムが出て行こうとしたとき、ふとアゾニアは彼を呼び止めた。
「なんだ」
「さっき言いかけたろ、あれは何だ」
「あ、ああ…」
 彼は軽い困惑の表情を浮かべ、ちらりと、ほんの一瞬フィムナを見た。
 諒解したアゾニアは、フィムナに言い残すと部屋を出た。
「ゆっくり、体を休めてくれ」

「頭を…打ってる可能性がある」
 外はもう夜だった。人気のない戦闘ポッド置き場で、ソルダムは手近の岩に腰掛けながら言った。
「内出血の痕があった。治りかけているがね」
 アゾニアは眉をひそめた。彼女も長年戦場に生きて、様々な戦傷を目にしている。頭部の打撲が致命傷になりうることもよく知っていた。
「しかし…そうだとしても、何処から来たのか知らないが、ここまで歩いて来られる元気があったんだ。大したことないんじゃないのか」
「いや…でもな…」
 後ろになでつけた亜麻色の髪を、かりかりと掻くのは彼の困ったときの癖だ。
「記録参謀ってのは、脳がデリケートなんじゃないのか?」
「知らねぇよ」
 アゾニアは憮然として答えた。
「で?これから永遠に目を覚まさない可能性でもあるってのか」
「いや、そこまでは…わかんないけどな…」
 ソルダムは上目遣いにアゾニアを見た。一見無表情を装ってはいるが、体から不機嫌さが滲み出てきているのが感じ取れる。
「目を覚ましたって…肝心の脳ミソがどうにかなってたら、どうするよ?」
 ケケケ、とアゾニアは小馬鹿にしたような笑い声を立てた。
「そりゃとんだ欠陥品だ。そん時ゃこのアゾニアの命運も尽きたってもんだな」
「おい、何考えてるんだよ」
 さっと身をひるがえすアゾニアを、ソルダムは呼び止めた。
 彼には計りかねていた。彼女はあの記録参謀で、何をしようというのだろうか。
「いいコトだ。い・い・事」
 背中で答えながら、アゾニアは天幕の中に姿を消した。

 ソルダムの心配とは裏腹に、記録参謀ラン・アルスールの目覚める日はそれから2日ほどでやってきた。
 彼女にとって不運だったのは、目覚めたおりもおり、たまたま指の包帯を取り替えようとしていたソルダムと目が合ってしまったことだった。
 ひと騒動起こった結果、アゾニアは拾得物の予想以上の生きの良さに満足気に笑い、一方ソルダムは「別に俺だって好きでアマっ子の面倒みてる訳じゃねぇんだ」と、憮然とすることとなる。
 特にフィムナの喜びは大きかった。年下の上官をよほど気遣っているらしく、2日間ろくに食事もとらず、その側を片時も離れようとしなかったので、アゾニアもつい、二人の身の上についての話は聞き得ずにいた。
 アゾニアが温かい飲み物を与え、簡単に今までの経緯を説明すると、記録参謀は次第に落ち着きを取り戻した。
 くりくりとよく動く大きい瞳は、髪と同じ赤い色をしている。色白で痩せた体は、屈強の地上兵の中で生きてきたアゾニアの目には奇異に映った。ときどき首を傾げるようにするのは、彼女の癖であるらしい。
 ランは改めて名乗ると、助けてもらったことに素直に感謝の意を表した。少々懸念していたような、階級を振りかざすようなところは少しもなかった。
 むしろ急激な環境の変化に戸惑いを隠せない様子で、表情が硬く、視線にも落ち着きがない。
「とにかく、あんたはもうちょっと休養をとったほうがよさそうだな。その前に…」
 アゾニアは指をパチリと鳴らした。
 すかさず、沸かした湯とタオルとが運ばれる。
「悪いけど、ここにはシャワーもないんだ。これで体を拭いてくれ。でないと…」
 眼前にいきなり迫ったアゾニアの向こう傷に、赤毛の将校は目を丸くし、たじろいだ表情をした。
「なんかクセエからな」
「なっ…」
 途端に、記録参謀の顔は髪の毛と同じく真っ赤になった。無理もないのだ。この星に来て以来、一度も体を洗っていない。彼女、ラン・アルスールにこの時初めて人間らしい表情の変化が出た。ぷいっと頬をふくらませ、アゾニアを睨み付ける。
「あは、あはははは…」
 アゾニアはついに堪えきれなくなって笑い出した。その様子に、ランはただきょとんとしていた。

 体を拭きながら、ランはぽつりぽつりと、アゾニアの質問に答えはした。しかし、最も肝心の基幹艦隊のこととなるとどうも要領を得ない点が多く、どのような状況でこの星に墜落したのかについても、あやふやな答えしか返ってこなかった。
「ごめんなさい…覚えてないんだ」
「覚えてないい!?」
 アゾニアは顔をしかめた。タチの悪い冗談だ。記録参謀といえば、見るもの聞くもの何でもたちまち覚えてしまう特殊能力の持ち主ではないのか?
「ところどころ…歩いてた時のことは覚えてるんだけど…」
 ランは不器用な手つきでタオルをしぼった。彼女は当初、タオルのしぼり方すら知らなかった。熱い湯を浸したタオルをそのまま体に貼りつけようとしたので、あわててアゾニアがやり方を教えたのだ。
「大きな水たまりに落ちたし…」
「水たまり?」
「うん、黒い水がものすごい勢いで流れてた」
「そりゃ、『川』ってんだよ」
 草も木も、土も失った大地を襲った黒い豪雨は、遮る物もないまま合流し、奔走する巨大な濁流となってむき出しの地上を好き勝手に暴れ回った。その凶暴な流れに飲み込まれてしまったゼントラーディ人は、相当な数に上るはずだ。
「アゾニア…あんまり…」
 側にひかえたフィムナが、アゾニアの質問から上官をかばうように身を乗り出した。
 そんな激流の一つに落ちながら、彼女らが今ここにこうして生きているのは奇跡に近い。ショックで混乱状態にあったとしても、無理からぬことであろう。
 ソルダムの話がちらりと頭をかすめはしたが、アゾニアには目の前の記録参謀にどこか欠陥があるとはとても思えなかった。
 実際のところ、アゾニアは記録参謀というものを正確に理解していた訳ではない。が、彼女は初めてこの少女を見たときから、ひらめきにも似た、ある種の確信を持っていた。
 彼女はついに本題を切り出した。
「聞いてくれ、今ここにいる人間の中では、あんたが最上級者だ。けど…」
「あなたは、地上部隊は、長いの?」
「あ?ああ、生まれてからずっと、装甲歩兵師団さ」
 アゾニアは胸を張って答えた。が、それとは反対に、ランはかすかに寂しげな顔を見せた。
「私たち記録将校にはね、もともと指揮権はないんだ」
「え…?」
 ランは再びタオルをしぼり、顔を拭うと、アゾニアの顔を真っ直ぐに見据えて言った。
「指揮下に入ってくれって、言うんでしょ?」
「あ、ああ…」
 アゾニアは気が付いた。この小さな将校は、彼女の言わんとしたことをすでに察している。
「…私は構わない。ここにいる間は、アゾニア、あなたの指揮下に入るから…もし私の力が役に立つなら、充分に利用してほしい」
「い…いいのか?」
 ランはうなずいた。フィムナは黙っていた。何か言いたげであったが、上官の決めたことに逆らうつもりもなかった。
 アゾニアは肩の力を抜いた。おもわず軽い溜息がもれる。その様子を見てランは小さく微笑んだ。ここに来て初めての笑顔だった。
「あ、そうだ…」
 アゾニアは再び部下に指示をした。きちんとプレスされた戦闘服が届けられる。
「終わったら、これを着な。ここではこういう格好のほうがいい。それにしてもなぁ」
 むしろ感心したように、アゾニアはランを見つめた。
「記録参謀ってのは、みんなそんなガリガリのぺったんこなのかい?」
「……」

 それからしばらくはランも体調が完全ではなく、ベッドにいることの方が多かったが、四、五日もするとすっかり元気を取り戻し、アゾニアから地上用の装備や部隊編成、戦術の基本などについて説明を受けた。
 幾重にも袖をまくり、まるで軍用コートを羽織っているかのようなその姿は、最初アゾニアの大爆笑の洗礼を受けてしまったが、存外本人は気にしていない。むしろ、記録将校など見たこともない軍団の兵士たちの無遠慮な視線に戸惑っているようだった。
 ランにも多少は地上戦の知識はあったが、所詮は予め脳に刷り込まれた「印刷物」でしかない。アゾニアの生きた知識に対していちいち目を丸くし、聞き入った。新しい事を覚えるのが好きなようだった。
 アゾニアも、ランが教える端から何でも覚えてしまうのが面白く、軍団のすみずみまで連れ回した。
「別にどこもおかしくはないじゃないか。見てみろよ。顔色もいいし、体格の割にはよく食うぜ」
 野外用の簡易作戦卓をスタッフらと囲みながら、アゾニアは満足気に言った。親身で飾らないアゾニアに心を許したのか、ランはよく笑顔を見せるようになっていた。元々は人なつこい性格らしく、一人でも野営地のあちこちを動き回り、兵士たちに何やら質問をしたりもしている。
「まぁ…ならいいけどな…」
 ソルダムは気のない返事をした。その脇で、ドルシラは作戦卓の地形情報を調整しようと四苦八苦している。
 この星の地図を持たないアゾニア達にとっては、偵察に散った部下達が持ってくる情報が頼りだった。あとは、古びたレーザー計測器が一台だけ。それらを駆使して今まで作り上げてきた地図は、アゾニアの宝だった。
「アゾニアぁ、あの子がなんの役に立つっていうのさぁ」
 黒い巻毛の下から、ドルシラは胡散臭げな視線を放った。その黒い瞳は、アゾニアに負けず劣らず野性的である。
「バーカ、あいつはなぁ、お前なんかの脳ミソ千人分より使えるんだよ」
 口をとがらすドルシラに、アゾニアはそれ以上構おうとしない。
「ねえ」
 突然後ろから声をかけられて、ドルシラは危うく飛び上がるところだった。
 だぶだぶの戦闘服を着た、赤い髪の将校が立っている。彼女は別にドルシラに用があったのではなく、アゾニアに声をかけたつもりだったのだが。
「あのね…」
 ランはアゾニアに近寄ると、大きな瞳をくりくりさせながら言った。
「話聞いてないの、アゾニア達だけなんだけど…」
「何の話だ?」
 アゾニアに代わって聞き返したソルダムに、ランはあまり視線を合わせないようにして答えた。やはり男の兵士には用心しているらしかった。
「どういう状況でこの星に落ちたか、この星に来てからどういう経路をたどったかとか、敵とどこで接触したかとか、そういう話…。他の人たちにはほとんど聞いたんだ」
「それで、何が一体分かるっていうんだ?」
「ケティオルとクリエラの隊の人が敵の姿を見たっていうから、時間や方角を聞いて…敵基地の場所を逆算してみた」
 その言葉に振り返った、背の高い、俊敏そうな青年がケティオルだった。彼は驚いたように手を広げた。
「俺達はみんなてんでバラバラの地点から合流してんだぜ。敵を見たっていったって、交戦したわけじゃない。機動兵器をちらっと見ただけだ」
 記録参謀は伸び上がって作戦卓を操作すると、地形図表示を広域にした。
「これがアゾニアの通ってきたルート…」
 作戦卓の画面を指でなぞると、青い線がその後を追うように描き出される。
「ケティオルの部隊はここで合流。その5日前に敵を見てる。その時の位置は大体ここで、方角はこっち…」
 当たり前のような口調で地形図をなぞるランに、ケティオルは不思議そうな顔をした。
「なんで分かるんだ?」
「標準の行軍スピードに疲労等を考慮したり、歩いた時間、いつ、どの方向にどんな物を見たか…それらの話を総合して計算してるんだ…情報が多ければそれだけ誤差が少なくなるから、みんなの話が聞きたいの」
 アゾニアは組んでいた腕をほどき、改めて傍らの記録参謀をまじまじと見た。
「クリエラたちも同じ日にこの位置から敵を見てるけど…」
 クリエラと呼ばれた女性士官は、黙って記録参謀の方を向いた。肩までとはいえ、髪を伸ばしている者はこの軍団では珍しかった。
「時刻、進路と方角から、その二つの敵は間違いなく同じもの。この星の戦力は元々大した規模ではないらしいんだ…」
 同様にランは地図に印をつけていった。
「そうなのか?」
 アゾニアは驚きの表情を浮かべた。それに対し、ランは小さく笑顔を浮かべると、話を続けた。
「敵の機動兵器についても、大体の性能諸元についてはデータがあるよ。その作戦可能時間から逆算して、このあたりに…敵の拠点がある可能性が高い」
 ランが円を描いた地点は、まだ偵察も済ませておらず、当然、地図もまだできていない空白地帯であった。
「このままの進路で移動すると、敵の拠点に近づいていってしまう…どうする?アゾニア」
 アゾニアは目を見開いた。水色の瞳が驚愕に揺れた。
「ラン…その…それ…頭ん中だけで全部計算できるのか?コンピューターもなしに」
「うん」
「……」
 他の者たちも呆然としていた。ドルシラは口をぽかんと開け、ケティオルは目を丸くし、ソルダムは口を二、三度開きかけたが、黙ってしまった。
 誰もが、想像していたものをはるかに超える、記録参謀の能力を今ここで初めて目の当たりにしたのだった。
コメント
この記事へのコメント
記録参謀かっこよすぎる
ランはかわいい感じだったのに、能力を発揮した途端にカッコイイ。
私は頭がいい人にはすごく憧れるので、いいですね~。
それにしても、こちらを拝見すると、TV版のゼントラン達はノー天気に見えてしまう。まぁ、あの作品の描き方自体、重いものを軽く書くのかな?と思うのですが。
PDFで拝見しましたが、こっちの方が読みやすく、らんこさんの作風にもあってると思いました。
アレ? らんこさん ― ラン ですか?
2011/07/11(月) 16:25:34 | URL | にゃお #nHTGuFzo[ 編集]
●にゃおさん
ご来館、ありがとうございます(^ ^)。
TV版は、ゼントラ人だけでなく地球人ものーてんきですよね(笑)
私はどちらかというと重めのが好きなので、書き方もそういう風になってますが。
PDF、作ってよかったです。やはり縦書きの方が読みやすいかなと思ったので。

>アレ? らんこさん ― ラン ですか?
ていうワケでもないんですけど、ランもアゾニアも、タイプは違えど私の理想像ですね。

これからもよろしくお願いします。
2011/07/16(土) 20:24:00 | URL | 作者。 #-[ 編集]
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